コラム・連載・特集

滋賀県警の無罪否定 冤罪招いた体質改めよ

2021/10/10 6:00

 刑事裁判で無罪が確定した人を、警察が改めて犯人と名指しし、民事裁判で争う―。大津地裁で進んでいる国家賠償請求訴訟を巡り、警察がそんな信じ難い対応をしていたことが明らかになった。

 原告は滋賀県東近江市の病院で2003年、人工呼吸器が外れて患者が亡くなった事件の元看護助手西山美香さんである。

 西山さんは殺人罪で服役後、再審請求によって無罪となった。国賠訴訟を昨年末起こし、逮捕以降の精神的、経済的損害の代償として約4300万円の支払いを国と県に求めている。

 無罪が確定した西山さんを滋賀県警がなおも犯人扱いすることは許されない。県警を監督する立場の三日月大造知事が「極めて不適切だ」と会見で謝罪したのも当然だ。どうしてこんな事態になったのか。県警は経緯の説明を尽くす義務がある。

 再審無罪が確定した昨年3月の大津地裁判決は、西山さんの自白の信用性と任意性を否定、患者が病死した可能性があると結論付けて警察の捜査を批判した。検察は新たな有罪立証を見送り、求刑さえしなかった。

 にもかかわらず県警は、国賠訴訟のことし9月15日付の準備書面に「患者を心肺停止にさせたのは原告(西山さん)」と記した。地裁裁判長の「取調官が虚偽の自白を誘導した」という指摘にも「誘導はあり得ない」と反論。さらに捜査手続きのあり方に疑問を投げかけた裁判長の説諭も「承服しがたい」と認めない姿勢を示した。

 西山さんは12年も自由を奪われ、名誉回復までに逮捕から15年もの歳月を要した。西山さんの長年の苦難を顧みず、確定判決をまるで無視するかのような県警の主張は根拠がなく、理解できない。

 法に基づき公権力を行使する立場の組織として、反省すべきは不適切な捜査ではないか。それを棚に上げ、西山さんを犯人扱いし続けることは人権や冤罪(えんざい)への意識が組織に欠落しているからとしか言いようがない。

 滝沢依子県警本部長は「(準備書面の)表現に原告の主張と県警の認識が必ずしも一致しない部分があった」と釈明。今月になって書面を訂正し、誘導や説諭を否定する内容は削除した。だが「心肺停止にさせたのは西山さん」については、後ろに「と判断する相当な理由があった」と付記するにとどめた。

 県警は「有罪が言い渡された当時の認識(を表現するため)だ」とし、再審無罪判決自体については争わない方針という。

 ならば、なおさら犯人扱いした表現は削除するのが筋ではないか。西山さんが「(犯人扱いする)県警の認識は何ら変わっていない。余計に傷つけられた思いだ」とコメントしたのもうなずける。

 他の冤罪事件の国賠訴訟でもこれまで警察組織防衛のための証拠改ざんや事件のでっち上げが指摘されてきた。組織のメンツを重んじるあまり事実をゆがめることがあってはならない。

 滋賀県では県警本部長が決裁後、県総務課長と書面を合議する内規がある。県警はそれを守らず、独断で提出していた。その説明も尽くされてはいない。

 守るべきは組織でなく市民である。滋賀県警は深く反省し、冤罪を招いた組織の体質を改めなくてはならない。

  • 前の記事へ
  • 次の記事へ

 あなたにおすすめの記事

社説の最新記事
一覧


 あなたにおすすめの記事