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衆院解散 政策煮詰めて、信を問え

2021/10/15 6:33

 岸田文雄首相はきのう、衆院解散に踏み切った。19日の公示を控えて各党は事実上の選挙戦に突入した。組閣から10日、解散から投開票まで17日。いずれも戦後最短という解散である。衆院議員の任期満了をまたぐ衆院選も現行憲法のもとでは初めてと、異例ずくめである。

 新政権の発足後は先日の衆参代表質問が唯一の国会論戦だった。野党が要求していた予算委員会審議には、与党が応じなかった。「ご祝儀相場」で支持率が推移する間に、解散を前倒ししたとしか考えられない。

 ▽財源論抜きでは

 衆院解散は安倍政権時代の2017年以来、4年ぶりである。この時は当時の安倍晋三首相が消費税率引き上げ分の使途の変更について「国民に信を問う」と踏み切ったが、岸田氏は何をもって国民に信を問うのか。岸田政権の政策は十分に煮詰められたとは言い難い。

 今回の総裁選で岸田氏が打ち出した政策はその後、変遷を遂げ、当初掲げた「令和版所得倍増」や「金融所得課税の見直し」は封印されたようだ。とりわけ、金融所得課税の見直しは格差是正と分配の目玉政策とされていただけに解せない。

 現在は「成長も分配も」と岸田氏は表現している。代表質問では、まず成長を目指すことが重要であって、それが民主党政権の失敗から学んだことだ―とも述べている。しかし、金融所得課税の見直しという有力な財源確保策を見送っていながら成長を語るのは迫力に欠けよう。もはや財源に関する説明抜きには政策論争はありえない。

 ▽成長と分配論争

 岸田政権の発足直後、現職の財務事務次官矢野康治氏は、日本が国と地方で1166兆円の借金を抱えているのに、それを直視しないまま「ばらまき合戦」の政策論が横行していると雑誌「文芸春秋」に寄稿した。この批判的論調が与党内で波紋を呼んでいるのは、痛い所を突いたからではないのか。

 社会保障の財源とされる消費税は「売上税」と呼ばれた当初から国政選挙の行方を左右してきた。消費税を巡って受益と負担の議論が選挙戦でなされるべきである。経済と国民生活が新型コロナウイルス禍で疲弊する中、増税につながる政策は打ち出しにくいだろうが、現実を直視しなければなるまい。

 立憲民主党は「分配なくして成長なし」と分配重視を公約で強調し、「1億総中流社会」復活も掲げている。岸田氏の経済政策の「ぶれ」を突いた。

 だが、財源確保に具体的な道筋が見えない点は自民党と変わらない。時限的な消費税率引き下げも公約しているが、民主党政権時代、消費税率引き上げを「税と社会保障の一体改革」として進めたこととは矛盾しないのか。消費税の在り方についてあらためて説明すべきだ。

 経済の立て直しもさることながら、政治の立て直しもこの選挙戦では問われなければなるまい。河井克行元法相と案里夫妻の買収事件をはじめとする「政治とカネ」の問題である。

 総裁選で岸田氏は「政治の根幹である信頼が崩れ、わが国の民主主義は危機にひんしている」と問題意識を表明していたはずだ。だが、首相就任後は案里氏側に自民党本部から提供された資金1億5千万円についての再調査は甘利明幹事長が否定し、岸田氏も追認している。

 ▽「森友」再調査は

 また、森友学園への国有地売却を巡る財務省の決裁文書改ざんについても、第三者による再調査はしないという。このままでは政治の信頼回復、自公政権の信頼回復はおぼつかない。

 今年は小選挙区制による衆院選が初めて実施されて25年になる。当時も「政治とカネ」の問題が噴き出し、選挙制度が変われば政治が変わるという期待があったが、現実はどうか。

 政治の舞台から緊張感が失われて久しい。立民と共産党は小選挙区で候補の一本化を進めているが、これによって有権者の選挙への関心を高め、「政権を任せられる」という空気を醸成できるかは未知数だ。これからの論戦に期待したい。

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