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<'21衆院選>核なき世界 被爆地の訴え、どう形に

2021/10/18 6:44

 被爆地を選挙区とする岸田文雄首相は、核兵器廃絶を「ライフワーク」に掲げている。所信表明演説でも、核兵器のない世界に向け、全力を尽くす、と力を込めていた。

 原爆の惨禍を知る被爆者をはじめ被爆地で、核なき世界への期待が膨らむのは当然だろう。

 これまで岸田氏は、核廃絶を求める国々と、米国など核兵器を持つ国々との橋渡しに努めると強調してきた。ただ具体的にどうするのか、核兵器廃絶への道筋は、まだ示されていない。

 首相として、例えば米国をどうやって説得しようと考えているのか。国民に説明した上で、あす公示の衆院選を通して政策論議を深めなければならない。

 核兵器禁止条約が今年1月に発効した。使用はもちろん、核兵器の開発や保有、威嚇までも禁止しており、被爆地の訴えを形にした内容だ。日本がどう関わるかも争点になろう。

 その禁止条約について、岸田氏は先月の自民党総裁選で、すぐに参加する考えは否定した。一方で、将来的な日米そろっての参加に意欲を示していた。

 にもかかわらず、衆院選に向けた自民党の公約には禁止条約の記載がない。政策パンフレットは40ページを超すが、関連した項目に「核軍縮、核不拡散体制を強化します」とあるだけだ。

 総裁である岸田首相の思いとは裏腹に、党は禁止条約を軽んじているのか。それとも総裁として党を掌握し切れていないのか。これでは、核なき世界への期待もしぼんでしまいかねず、看過できない。

 日本政府が毎年、国連総会に出す核兵器廃絶決議案も期待外れだった。先週提出されたが、内容は今年も不十分だった。

 最大の問題は、禁止条約が採択された2017年から一貫して禁止条約に直接言及していないことだ。「核の傘」を差し出す米国に配慮し、条約に背を向ける姿勢を踏襲した形である。

 表現の後退も目立つ。例えば核兵器の使用で生じる壊滅的な結果に関して、19年以降と同じ「認識する」とした。18年までは「深い懸念」としていたのを、保有国への忖度(そんたく)からか、今年も弱めたままにした。

 今回は、忖度のない表現に戻す好機だった。小型核兵器の開発にまで乗り出していたトランプ氏が米大統領を退いたのである。後任は、核なき世界の実現を掲げていたオバマ政権を、副大統領として支えたバイデン氏である。バイデン氏は昨年の大統領選のさなか、広島への原爆投下75年の8月6日に声明を出し、核なき世界の理念を引き継ぐ考えを明らかにしていた。

 米国には、バイデン氏以外にも賛同者がいる。1400を超す都市の市長でつくる全米市長会議もそうである。禁止条約を前向きに受け止め、核廃絶への行動を政府に呼び掛ける決議を今夏の年次会合で採択した。

 岸田氏は、こうした追い風を認識しなければならない。まずは、来年春に開かれる禁止条約の締約国会議へのオブザーバー参加の道を切り開くべきだ。核なき世界への一歩になり得る、との期待も高まっている。

 連立を組んでいる公明党や、野党第1党の立憲民主党など、賛同する政党は少なくない。これも追い風にして、指導力を発揮できるか。被爆地選出の岸田首相の真価が問われる。


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