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石油備蓄放出 価格抑制、効果は未知数

2021/11/25 6:43

 原油価格の高騰に対応するため、政府は石油備蓄を放出することを決めた。バイデン米政権の要請に応じて、中国やインド、韓国など主要な消費国と協調し、足並みをそろえて取り組む姿勢を示した。

 供給量を一時的に増やして、ガソリンをはじめとする石油製品価格を抑える狙いがある。米国は前のめりだが、具体的な放出量や時期などを示していない国もあり、十分な効果が発揮できるかは未知数だ。

 しかも日本の場合、備蓄の放出は供給不安に備えるために限っており、価格を調整する目的で取り崩すことは想定していない。政府には、異例な対応の必要性と効果について十分な説明が求められる。

 日本の石油備蓄には、国が保有する国家備蓄と石油会社に義務付ける民間備蓄などがある。石油備蓄法では、国家備蓄は国内需要の90日分以上、民間備蓄は70日分以上と定める。

 9月末時点で、国家備蓄は145日分、民間備蓄は90日分あり、いずれも目標量を上回る。政府はこのうち国家備蓄の「余剰分」を放出する。まずは数日分で、追加も検討すると言う。

 石油備蓄法が備蓄の放出を認めているのは、供給が途絶する恐れがある紛争時や災害時に限られている。政府は目標量は満たしたままなので、余剰分なら法律の枠組みの中で対応できると判断したようだ。

 過去には1991年の湾岸戦争や、2011年の東日本大震災などの際に民間備蓄を放出したことはあるが、国家備蓄の放出は初めてとなる。レギュラーガソリンの平均価格が185円10銭と史上最高値をつけた08年にも放出していない。

 異例の判断は、原油価格の高騰抑制へ国際協調を演出したい米バイデン政権の要請に応じるための苦肉の策と言えよう。

 しかし、「最後のとりで」である国家備蓄を初めて取り崩すことには、法改正が必要との指摘も出ている。これまで想定していなかった放出の法解釈に問題はないか、国会で議論を深めるべきである。

 価格の抑制効果にも疑問が残る。たとえ放出に問題がなかったにしても、日本から市場に出せる量は数日分にすぎない。

 政府は、国家備蓄の原油の種類を入れ替える際に一部をアジアの石油市場で売却しているという。今回も同じ手法で余剰分を売却するなら、価格や流通経路を含めて国内の需給にどんな影響があったのかを検証し、明らかにしなければならない。

 各国が協調放出しても、供給量が増えるのは一時的で全体の需給に与える影響は限られるとの見方が強い。逆に産油国の増産意欲を削って、むしろ価格を上昇させるリスクがある。

 政府は今月まとめた経済対策にもガソリンなどの価格抑制策を盛り込んだ。石油元売り会社へ補助金を出し、店頭での価格を上がりにくくするというものだが、こちらも実効性や支援の公平性に疑問を投げかける声が業界からも相次ぐ。

 原油高はさまざまな原材料や生活必需品の値上がりをもたらしている。経済や暮らしへの圧迫を軽減するための対策は必要だが、場当たり的になってはならない。脱炭素社会の実現をにらみ、長期的な視点に基づいた政策対応が求められる。

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