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ドストエフスキー生誕200年

2021/11/26 6:00

 コロナ禍でじっくり腰を据えて読む人が増えたためだろう。ここにきて辞書並みに分厚い書籍が売れている。その重量感から「鈍器本」とも呼ばれる▲わが家の書棚にも「鈍器本」は並ぶ。恥ずかしながら長い間、開きもしなかった世界文学全集である。中でも難解なイメージから手を出しそびれていたのがロシアの文豪ドストエフスキー。今月が生誕200年の節目と知って読み始めたら、ページをめくる手が止まらなくなった▲代表作「罪と罰」の主人公は貧しい元大学生だ。天才である自分は凡人を殺す権利があるという身勝手な思想を持ち、高利貸とその妹を殺す。「選民思想」に凝り固まった主人公を通し、文豪は読み手に問う。なぜ人は生きるのか、なぜ人を殺してはならないのか―▲慣れないカタカナの名前ばかりで筋を追うだけでもしんどい。それでも三つの世紀をまたいで読み継がれているのは、善悪の二元論では割り切れぬ人間の姿が、現代に通じるからだろう▲旧ソ連時代には冷遇されたが、近年ロシアで再評価される。遠く離れた日本でも、今世紀に入って新訳や漫画の刊行が相次ぐ。格差や分断が深刻な今、文豪の問い掛けは、ずしりと重い。

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