文化・芸能

ガンダムの世界を原体験 島根・益田で富野監督企画展

2020/1/24 20:46
「アニメはもっとメッセージ性を高めていく必要がある」と話す富野さん

「アニメはもっとメッセージ性を高めていく必要がある」と話す富野さん

 「機動戦士ガンダム」シリーズなどで知られるアニメ監督、富野由悠季(よしゆき)さん(78)の作品をたどる企画展が、益田市の島根県芸術文化センター・グラントワ内の県立石見美術館で開かれている。開催に合わせて市内を訪れた富野さん。創作の背景や展示への思いを聞くうち、話題は未来のためにアニメが果たし得る可能性にまで及んだ。

 ▽アニメは次代へのメッセージ

 「富野由悠季の世界」展は、富野さん直筆の絵コンテや企画書など約3千点を展示。1972年に初めて監督した「海のトリトン」や、79年に誕生したガンダムシリーズ、80年の「伝説巨神イデオン」など、手掛けた仕事を網羅的に紹介している。

 ▽父は研究に従事

 富野さんの父親は戦中、神奈川県の小田原にあった旧日本軍関連の軍需工場で主にゴム製品の研究に従事し、風船爆弾の開発にも関わった。写真が展示されている与圧服も父が携わったものの一つだ。高高度の気圧から航空パイロットを守るための装備で、宇宙服に似る。

 富野さんは「父から与圧服の写真を見せられて育ったのが、宇宙ものをつくるようになった原点」と振り返る。幼少時の経験が、宇宙という現実離れした世界をリアルに描く支えの一つになっていた。

 ガンダムを構想する上で、「技術者の父が設計したロボに息子(アムロ)が乗って戦場に行くという話は現実味があった」と語る。純粋に技術を追う父と、実際の戦争に身を投じる子で見ている世界が違う「ギャップ」にも原体験が反映しているという。

 ガンダムは、リアリズムを追求したと評されることが多い。「現実の戦争をベースに構想したのだから当然」と富野さん。「フィクションを見て戦争がどういうものか分かるなんて逆転した愚かな発想だ」とくぎを刺した。

 ▽現代社会を憂う

 同展について、富野さんはガンダムをはじめとする作品群の「カタログ」で終わらせる意図はない、と説く。「10万人のうち5人か6人でも富野ワールドの総体を感じ、アニメが何を果たしていけるのか考えてもらう機会にしたい」

 ではアニメにどういった役割を期待するのか。富野さんは「次世代へのメッセージを伝える媒体にしなければ」と力を込める。背景にあるのは現代社会への強い危機感だ。例えば原子力問題。「便利だ、いや危険だという思考停止した両極端の意見しか出てこない」。データに基づき冷静に議論する環境が育まれていない、と憂う。

 アニメはそうした社会のタブーに切り込む手段になり得るという。富野さんは現在、最新作「ガンダム Gのレコンギスタ」の制作を続ける。同作は進歩の果てに絶滅の淵まで追い詰められた人類が、技術をリセットして生き延びた世界を描く。現状の肯定に流れがちな世の中への問題提起とも取れそうだ。「地に足の着いた考える力を育てたい」と願う。

 アニメに携わる後進への警鐘も鳴らした。娯楽志向を強める業界を「甘っちょろい」とたしなめる。「アニメの持つ伝播(でんぱ)力を自覚してほしい。(未来へのメッセージを)怖がらず発信していくべきだ」と強調した。

 同展は3月23日まで。火曜休館(2月11日は開館、翌12日が休館)。中国新聞社などの主催。(城戸良彰)


この記事の写真

  • 「機動戦士ガンダム」(1979年)
  • 富野さんの父親が開発に関わっていた与圧服の写真(1945年、個人蔵)

上記の写真をクリックすると拡大して表示されます。

  • 前の記事へ
  • 次の記事へ

 あなたにおすすめの記事

美術の最新記事
一覧