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人気漫画「約束のネバーランド」 広島女学院大・戸田慧准教授が読み解く

2020/9/8 19:30
「不思議の国のアリス」の本を手に「英米文学や文化を学ぶ面白さを伝えることができれば」と話す戸田准教授

「不思議の国のアリス」の本を手に「英米文学や文化を学ぶ面白さを伝えることができれば」と話す戸田准教授

 略して「約ネバ」とも呼ばれる「約束のネバーランド」は、累計発行部数2400万部を超える人気漫画だ。その読み解き方を広島女学院大の戸田慧准教授が新著で提示し、話題となっている。「英米文学者と読む『約束のネバーランド』」(集英社新書)。「今まで思ってもみなかった物語の楽しさを発見してほしい」と話している。

 ▽理不尽への反逆描く「文学」 文化・宗教、巧みに織り交ぜ

 漫画は、人間を食料として飼育する鬼が支配する世界で、少年少女が残酷な運命にあらがうストーリー。戸田准教授は「文学や文化、宗教といった幅広い要素を巧みに取り入れている」と説明する。本書は、「ネバーランド」というタイトルから連想させる「ピーター・パン」などとの類似性を論じる第1章「イギリス文学・文化とのつながり」に始まり、「原初信仰とユダヤ・キリスト教」「ジェンダー」と続く3章構成。漫画の名場面を引用しながら考察を進める。

 漫画の主人公エマは、孤児院を出ていく仲間が忘れていった白いウサギの人形を届けようとして、恐ろしい真実に気付く。白いウサギがヒロインを導く筋書きは、英国のルイス・キャロルの名作「不思議の国のアリス」をほうふつとさせる。戸田准教授は「どちらの作品も大人と子どもの対比が重要な意味を持つ。大人の理不尽なルールに対する子どもたちの反逆の物語でもある」と指摘する。

 知恵を振り絞って孤児院からの脱出を図る主人公を、旧約聖書の「出エジプト記」で同胞を率いて「約束の地」を目指したモーセになぞらえて論考。英国のトールキンの傑作で「ファンタジーの原典」と呼ばれる「指輪物語」との関係性にも言及し、美しいエルフ族が醜悪なオーク族に変化した設定と似たシーンがあると推察する。

 脱出以前の子どもたちは、謎の施設で慈愛に満ちた保護者に守られる。こうした状況設定は、ノーベル文学賞を受賞したカズオ・イシグロの「わたしを離さないで」をイメージさせる。「わたしを―」の子どもたちは「理不尽な社会のシステムに対し、反旗を翻すこともなく、施設から脱走することもない」。一方で漫画は「仲間と協力して活路を開く場面が日本文化らしい」と解説する。

 戸田准教授は、漫画作者や版元の許可を得た上で書籍化。内容について作者とすり合わせはせず、自由に解釈したという。「あくまで私の見方。作者の意図とのずれは避け難いが、そのずれの中にこそ思いがけない解釈の可能性が生まれ、物語はより一層広がりを見せると信じている」と話す。

 戸田准教授によると、子どもたちが真に自由な大人へと成長するという物語は、伝統的な児童文学の王道であり、それを継承している本作は「漫画という媒体で描かれた新しい『文学』といえる」。児童文学の基礎知識も交え、読書案内としても役立つ内容にした。「コロナ禍で外出しづらい状況が続く今だからこそ、漫画の世界から名作文学にも触れるきっかけになれば」と期待を込める。(久行大輝)

 とだ・けい 1985年奈良県生まれ。関西学院大大学院文学研究科博士後期課程修了。2015年に広島女学院大講師、19年から同大人文学部国際英語学科准教授。

 <クリック>約束のネバーランド 白井カイウ原作、出水ぽすか作画。楽園と信じていた孤児院が、実は鬼の食料として人間を育てる「農園」で、最愛の「ママ」は監視役だったという秘密を知った少年少女たちが決死の脱出を試みる。2016年に「週刊少年ジャンプ」で連載が始まり、今年6月に完結。単行本は未完結で19巻まで刊行。12月には実写映画が公開される。 

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  • 「英米文学者と読む『約束のネバーランド』」(集英社新書)

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