文化・芸能

【小説の作法 わたし流】中国短編文学賞入賞者が語る<上>日々の出来事からヒント

2020/12/10 10:48
古川こおとさん

古川こおとさん

 あなたも短編小説を書いてみませんか―。今年も中国短編文学賞の作品募集が始まった。小説を書いてみたいけど難しそう。どう書けばいいのか分からないと思う人は多いだろう。そんな悩みにアドバイスしてもらおうと、過去の入賞者たちにアンケートを送った。寄せられた回答からは、創作に臨む姿勢や書き方の実践例が浮かび上がる。(鈴中直美)

 ▽テーマと構成

 ★その一、思い掛けない場面に種がある

 今年の大賞受賞者、美濃左兵衛さん(55)=廿日市市=が着想を得たのはパチンコ店にいた時だった。大当たりを引き、ふと「いまおやじが死んでもここではやめられんな」と頭をよぎった。パチンコの大当たりの場面から父の火葬へとつながる異彩ある物語に結実した。

 今年優秀賞だった三次市の武田純子さん(42)も「思い掛けない場面でテーマの種を拾うことがある」と日々の思いつきを重視。そこで活用するのが、スマートフォンのメモ機能だ。「その場で書き留めないとまず忘れてしまう」。すぐに打ち込み、帰宅したらネタ帳に書き写すことを勧める。

 ★その二、テーマを意識しすぎず、登場人物を動かしてみる

 一方で、テーマを意識しすぎると「大きな落とし穴になる」という意見もある。広島市安佐北区の古川こおとさん(48)は「何かいっぱしのことを書かなければというプレッシャーが悪い方向に作用し、しっくりこない作品になったことがある」。まずはテーマにとらわれず、「登場人物の行動や心の動きから考えてみるのも一手」と指摘する。

 ★その三、構成や展開はアイデアをすべて書き出してみる

 物語の構成については受賞者の多くが「最も苦労する」「こつがつかめない」と回答し、手法もさまざまだった。基本に忠実な「起承転結」派のほか、「アイデアを片っ端から書き出して組み立てる」といったケースもある。

 山口県周防大島町の三崎爽さん(62)は、起承転結の具体例を紹介する。起で主人公の名前や人柄を紹介▽承で主人公の日常や事件を進める▽転でヤマ場を作り▽結でクライマックスを描く。「中国短編文学賞のように原稿用紙20枚の場合、ヤマ場は一つだけ。どんな結末を用意できるかが腕の見せどころ」となる。

 安佐南区の小浦裕子さん(44)は「場面ごとに書いたものを幾つかつくる」。それらを「時系列に並べたり、順番を入れ替えたりしながら構成を考える」と説明する。三次市の浜野登美雄さん(85)は「書きたい事象を書き連ねるうちに、獣道のような物語の中心部分ができることもある」と話す。

 ★その四、とにかく書いてみる

 「まずは一番書きたいシーン、頭の中でしっかり固まった場面など、書きやすい部分から気楽に進めてみては」と話すのは古川さんだ。過疎の集落を舞台に住職と息子のすれ違いを描いた受賞作は、ラストシーンから書いたという。書くうちに登場人物が動き、会話し、変化していく。「とにかく完成させることを目指しましょう」と提案する。

 ▽わたしの創作スタイル 古川こおとさん

 仕事が休みになる週末に集中して執筆する。愛用の旧式パソコンはインターネット接続をしていないため、気が散らずに済む。合間につまむシフォンケーキが楽しみだ。お供はティーバッグの紅茶だが、原稿が完成した時は特別にブルーマウンテンコーヒーをいれる。「至福の時間です」


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