エッヘン!産地ごはん
放牧で健康な乳と肉 広島県北部の「グラスフェッド」 ふんや尿で土壌も豊か
主に放牧で、牧草を牛やヤギに食べさせて飼育する「グラスフェッド」が、広島県北部で少しずつ広がっている。育てた牛、ヤギの乳製品や肉は味が良く、健康志向の消費者たちに人気が高い。より自然に近く、環境にやさしい畜産には、「牛も人も幸せに」という思いが込められている。
「人が利用できない草を牛が食べて、ミルクという食料にしてくれているんです」。庄原市口和町で「ふくふく牧場」を営む福元紀生さん(41)は、ジャージー牛5頭を牧草で育てる意義を強調する。山に放牧すると、自由に動き回れて牛が健康になり、ふんや尿で土壌も豊かになる。
さらに町内の耕作放棄地で育てた牧草を、干し草や発酵させた状態で与える。濃厚飼料と呼ばれる、トウモロコシや大豆など人が食べられる物は使わない。
福元さんは、広島市立大を卒業後、広島、東京の牧場で働き、福島県いわき市で独立した。しかし、東日本大震災で原発事故が起き、2011年夏、牛を連れて三次市へ。12年春に口和町で放牧を始めた。
福元さんが牛1頭から1日に搾る乳は約5リットル。日本で一般的に飼われている白黒まだら模様のホルスタインのわずか5分の1程度しかない。乳をチーズに加工して付加価値を高めて販売し、なりわいとしている。「牛の負担も少なく、ふんから草が生え、山にとってもいいサイクルになっている」と話す。
三次市廻神(めぐりかみ)町の「二本松牧場」では、ジャージー牛30頭近くを一年中放牧している。牧場主の織田正司さん(44)は「うちの牛は健康です、と誇りたい」と強調する。
放牧を始める前の5年間は、牛舎でホルスタインを飼って乳を出荷していた。乳量を増やすために濃厚飼料を与えていたが、病気になる牛も少なくなかった。「病気は私の責任。愚痴も言えない。精神的にも肉体的にも追い込まれた」と振り返る。「太古の時代と同じように飼えば、牛への負担が少ないのではないか」と放牧にたどり着いた。
地域の人たちから借りた水田で10年前からジャージー牛の放牧を開始。栄養価の高い草が生えてくる春に出産させ、搾乳は5〜9月の5カ月間だけにした。すると、牛は病気知らずに。2、3回の出産で病気や事故で「廃用」となるケースが多いホルスタインに比べ、織田さんの牛は10回出産しても元気という。
18年3月には、育てた牛の肉やミルクが味わえる飲食店「牛の草」をオープン。店の大きな窓からは、放牧された牛の姿が見える。「ここでお世話になっているので、地産地消にこだわりたい」。グラスフェッドの肉は都心部で人気が高いが、肉の販売は店頭に限定している。
三次市三良坂町でチーズを販売する「三良坂フロマージュ」の松原正典さん(46)は、06年からヤギ、07年から乳牛ブラウンスイスを山に放っている。「西日本は放牧に適している」と松原さん。春から秋にかけて草が何度も再生するため、山が多少狭くても草が豊富にあるからだ。
放牧を始めた頃は、濃厚飼料を与えて牛舎で飼うのが当たり前とされていた。「穀物をやらないなんて虐待だ」との声も耳に届いた。しかし、グラスフェッドによるおいしい乳で作ったチーズがコンテストで入賞し、ファンが増えてきた。
「放牧は農村の産業になるし、牛やヤギが土地を守ってくれる。これこそ、国連が推進するSDGs(持続可能な開発目標)の考え方と合う。海外から輸入する穀物に頼る必要もなくなる」。広がりを期待し、放牧で独立したい人を受け入れている。(二井理江)
▽直営店やデパートで販売
ふくふく牧場のチーズは、牧場の直売所のほか、近くの「モーモー物産館」、庄原市高野町の「道の駅たかの」などで販売する。Tel0824(87)2195。
二本松牧場の肉は「牛の草」で販売。完売の場合もあり、事前に在庫を確認した方がいい。Tel0824(66)1319。
三良坂フロマージュのチーズ、ヨーグルトは直売所のほか、トレッタみよし(三次市東酒屋町)や広島三越(広島市中区)で販売。ホームページでも購入できる。Tel0824(44)2773。
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