エッヘン!産地ごはん
料理と食材、共に高みへ 「喜多丘」の店主・北岡三千男さんに聞く
くらし面で展開している「エッヘン!産地ごはん」で、シェフのレシピを担当する広島市東区の日本料理「喜多丘」の店主北岡三千男さん(72)。ことしは世界の傑出したレストラン千店を選ぶフランスの「ラ・リスト」2020年版にも選ばれた。1年の締めくくりに、北岡さんに中国地方の食材への思いや産地への期待を語ってもらった。
―店でふんだんに地元の食材を使うのですね。
中国地方には味わい深い野菜や果物がたくさんあります。庄原市高野町のリンゴ、呉市のキャベツ「広甘藍」、長門市の白オクラ、広島湾の小イワシ…。味や風味の際立つものを、積極的に取り入れています。
ただ、中国地方の食材が全国で通用する味にまで高められているかといえば正直、「もう一歩」です。まだ、伸びしろがあると感じます。全国の農家と取引をしてきた経験から言うと、野菜の色つや、形、味を見ればもっといいものがたくさんある。中国地方の生産者に、もっと貪欲になってほしい。
―どうすればより質が高くなるのでしょう。
例えば、京都の農家のように伝統野菜に絞るなどして専門性を高めるとか。賀茂なすは上質なものなら1個600円以上します。それでも買い手があるのは、火を通すととろっと甘くてね、味に金額以上の価値があるから。食べて感動する野菜を、ぜひ広島で作ってもらいたい。
土づくり、温度管理、栽培方法で味や食感は変わります。最近は作物の糖度やうま味成分の含有量も調べられる。さらに、農家の経験と科学やバイオテクノロジーの知識を融合させれば無理じゃない。
学び、知恵を絞り、労力を惜しまなければ、きっと見えてくる。毎日バットを振り続けないと、ヒットが打てないんです。足を引っ張っているとしたら、広島がいいところだからですよ。
―どういう意味でしょう。
気候も温暖で自然にも恵まれ、普通に育ててもそこそこ売れるものができる。多品目を栽培し、それぞれの野菜の価格変動に対応するスタイルは、確かに安定的な収入を得られます。生活していくためには、それも必要でしょう。でも、そこで満足していいんでしょうか。種類を絞り、質を高めて、全国に打って出る「チャレンジャー」がいてもいい。そのためにはね、私たち料理人も役割を果たさないといけない。
―確かに、その食材をどう料理するかで、おいしさは変わりますね。
中国地方には、段々食べられなくなっている伝統野菜が少なくない。それは、気の利いた料理が少ないからです。食べ方を消費者に知ってもらい生産者に作り続けてもらえるよう、料理人がもっと頑張らないといけない。
例えば、苦みが強い矢賀ちしゃはいりこをあえた甘めのみそを付けて食べるとうまい。干した祇園坊柿にクリームチーズを合わせれば、ワインや日本酒によく合います。
若い頃は全国から高級食材を仕入れていました。地産を軸に勝負するようになったのは、地域の食材の質が上がったから。それに、地元の生産者に頑張ってもらいたいからです。地産食材の簡単な食べ方を伝えたくて、テレビ番組の料理コーナーや「エッヘン!産地ごはん」のレシピを引き受けています。
―「ラ・リスト」に選ばれたのは、社会貢献度の高さも影響しているようです。
27歳で店を開いてから、東京に負けん料理が食べられる店にしてやろうと思って走ってきたんですがね。これからの自分の使命は、広島の食の豊かさを伝えていくことだと思っています。その使命を果たすには、生産者の皆さんとチームになる必要がある。料理は食材ありき。生産者の存在の大きさを誰より実感しているのがわれわれ料理人です。
生産者の皆さん、「これじゃ」という野菜が作れたら、魚介類が取れたら、ぜひ店に持ち込んでほしい。一緒に自慢の「産地ごはん」を作りましょう。古里を耕して、日本一の食材を一つ、二つと増やしていきましょう。
きたおか・みちお 48年、呉市生まれ。東京や関西地方の料亭で修業を積み74年、広島市東区に日本料理「喜多丘」をオープン。92年、大阪国際グルメフェア日本料理部門でグランプリ受賞。
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