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薬物・酒・ギャンブル… 依存症に「ぬくもり」の薬

2019/5/10 19:53
イラスト・本井克典

イラスト・本井克典

 麻薬取締法違反の罪で起訴されたミュージシャンで俳優のピエール瀧被告が保釈されて1カ月余り。出演作の公開中止や販売自粛が相次ぎ、強い非難と社会的制裁を受けた。薬物に限らずアルコールやギャンブルなど依存症の人には「自業自得だ」と厳しい目が向けられる。しかし、依存症の当事者や支援者は「批判を受けるのはやむを得ない」としながらも「断罪だけでは、回復への道が閉ざされる」と訴える。

 ■誰でもなり得る 脳回路、意志に反し変化

 依存症というと、意志の弱い人が陥ると思われがちだ。しかし依存症予防教育アドバイザーの上堂薗順代(かみどうぞの・のぶよ)さん(55)=福山市=は「気晴らしのためにお酒を飲む人は少なくないはず。依存症は寂しさやストレスの解消から始まる。誰しも人ごとではありません」と強調する。

 上堂薗さんは自身もアルコール依存に苦しんだ経験がある。飲酒はもともと、暗い気持ちを軽くする手段だった。「アルコールに強い」と自負していたが、結婚後に量が徐々に増加。不妊への不安をまぎらわせているうち、歯止めをかけられなくなったという。

 人は不安を和らげ、嫌な気持ちを忘れるために、飲酒や買い物、ギャンブル、ゲームにのめり込むことがある。それを繰り返し「やめたくてもやめられない状態」になるのが依存症だ。なぜコントロールできなくなるのだろう。

 広島市安芸区のKONUMA記念依存とこころの研究所所長で精神科医の加賀谷有行医師(57)は、「脳の回路が意志とは関係なく酒や薬を求めるように変化するからです」と説明する。

 酒や覚醒剤を体内に取り入れると、ドーパミンという物質が脳に分泌され快感を感じる。繰り返し分泌されると快感を求める回路が活性化され、アルコールや薬物を取り込む行為を習慣化させる。少量では快感を得にくくなって量や頻度が増え、抜け出せなくなる悪循環が起こる。

 一方で「依存症は病気。治療できます」と加賀谷医師。アルコールや薬物の場合、入院や医薬品の服用で体から酒や薬を抜く。自分の体験を振り返るグループ学習やスポーツにも取り組み、酒や薬以外のものに快感を感じるよう脳を正常に戻していく。基本的な治療は、およそ3カ月かかる。

 ただ、回復への道のりは険しく、10年以上かかる人もいる。加賀谷医師によると、アルコール依存で退院後の1年間に断酒できる人は10〜30%とされる。「治療はあくまでスタート地点で、回復へのやる気を得る時期。退院後も孤独を感じず、リラックスできる環境が欠かせません」

 ■抜け出すには 再出発支える仲間必要

 回復途中にある依存症の当事者を支える場の一つが自助グループだ。一般社団法人広島ダルク(広島市中区)は、薬物をやめたい人が集うミーティングを毎日、開く。どんなときに薬が欲しくなるか整理し、防止策を話し合う。

 井上智義施設長(52)は「一生やめ続けなくてはならないのが依存症のしんどい部分。『今日はやめよう』と思える日の積み重ねが回復するということ」と話す。仲間の苦労に共感し成功例を身近に感じると、助けになるという。

 しかしピエール瀧被告を巡る世間の反応に「バッシングがあまりに強い。回復に向け努力する人の存在が注目されにくい」と痛感した。何度でも寄り添う受け皿こそ必要だと訴える。

 孤立の防止が、再発を防ぐと当事者も実感する。広島ダルクに所属する男性(55)は家族に「やめるために、どう力を貸せばいいの」と聞かれ、心から応援してくれる存在に気が付いた。「心のよりどころがあれば、大きな支えになります」と打ち明ける。

 依存症によって心身を壊し、働けない人は少なくない。だが回復できれば、社会とのつながりを取り戻す兆しが見えてくる。上堂薗さんもアルコール依存から抜け出し、社会復帰した一人だ。

 かつては、お酒を断ちたいと願う一方「やめてもいいことなんてない」と落ち込んだ。周囲に迷惑を掛け、社会から隔絶され、その現実に身がすくんだ。支えになったのは、再発しても見放さない支援者や家族だった。不安に何度でも耳を傾けてくれた。前に向かおうとする姿を信じてもらった。10年かかってやっと断酒できた。

 その後はボランティア活動に打ち込み、今では看板製作の会社を経営する。支える側になりたいと社会福祉士などの資格も取った。断酒して23年。ピエール瀧被告の事件について上堂薗さんは「違法な薬物に手を出したのは悪いですが、彼の人生がこれで終わったかのように糾弾されるのは悲しい」と語る。「依存症になっても再出発できる社会であってほしい。その温かさは、他の生きづらさを抱えた人にとっても光となるはずです」(福田彩乃)

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  • 「依存症の人を排除しないでほしい」と訴える上堂薗さん(福山市)
  • 広島ダルクで回復を目指す男性。仲間の存在が支えだ(広島市中区)

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