くらし

第5部 すれ違う医師と患者<1>起こり得る事故

2019/10/2 19:58
院内でのカンファレス。患者の家族に病院のスタッフが入院中の様子を伝え、今後のケアについて話し合う(広島市佐伯区のナカムラ病院)

院内でのカンファレス。患者の家族に病院のスタッフが入院中の様子を伝え、今後のケアについて話し合う(広島市佐伯区のナカムラ病院)

 なんで病院にいるのに骨折するんだ―。高齢患者の家族の語気が強まる。広島県内の病院に勤める男性医師(48)が大声で非難されたのは一度や二度ではない。身内がけがして怒りがこみ上げるのはよく分かる。だが、一方的に病院側を責め立てるのは筋違いではないかと思う。「病院でも家と同じように、転倒をゼロにするのはできないってことが分かってもらえない」

 ▽リスクのある現実 まず共有

 認知症の患者の入院が増える中、転倒の恐れがあれば、スタッフがすぐ駆け付けられる病室に入ってもらう。ベッドから離れると知らせる転倒予防のセンサーも置く。可能な限りの対策を取っても、転倒や転落による事故は起きてしまう。

 骨折が分かれば夜中でも家族に連絡する。面と向かって説明すると大半は納得してくれる。だが一部の家族が大きな声を出すのもこのときだ。「看護師がすぐに駆け付けなかったからだろう」「安全管理もできていないのか」「医療費は払わない」…。疲労感が増す瞬間でもある。

 男性医師はぼやく。「避けられない事態でさえ、全て病院の責任というような風潮が広がっている。医療機関が『患者さま』と言いだした頃から、医療が信頼されなくなったんじゃないですか」

 病院での転倒・転落の事故は、どのくらい起きているのだろうか。全国自治体病院協議会によると、中国地方の自治体病院では、検査や処置が必要な転倒・転落は多い所で年間200件以上あった。高齢や認知症の患者の多い病院ほど、事故が多い傾向がある。

 ことし3月に89歳で亡くなった女性も、入院していたナカムラ病院(広島市佐伯区)で、大腿(だいたい)骨を折った。看護師が夜中、音に気付いて駆け付けると倒れていた。翌朝、救急病院に運ばれて手術した。

 義理の娘(69)=廿日市市=は、病院から突然、骨折したと電話があって驚いたという。「認知症だから『痛い』と言えなかったようなんです。どうやって骨折したのか分からず、もどかしくて」。夜のスタッフがもっと多ければ、とも思った。

 でも、病院を責める気にはならなかった。病院から繰り返し説明を受けていたからだ。高齢になるとちょっとしたことで骨が折れやすいこと。夜には看護師が少なくなること―。それに見舞いのたびに熱心な世話を目にし、信頼もしていた。「自宅でもいつか転ぶんじゃないかと目が離せませんでした。病院の中でも覚悟はしていたんです。うちのおばあちゃんばっかり見ているわけにはいかないでしょうから」

 ナカムラ病院では、事故防止のために細心の注意を払ってケアしているという。塚野健院長(61)は「それでも骨折は起きることがある。そのリスクを家族の方にも分かってもらうため、くどいほど説明しています」と打ち明ける。

 高齢になると、のみ込む力が衰え、誤嚥(ごえん)から肺炎になることもある。寝たきりで関節が固まった患者は、おむつ替えのときに骨折することもある。ただ、説明が伝わりにくい家族もいる。

 大野浦病院(廿日市市)で患者や家族の相談に乗ってきた広島県医療ソーシャルワーカー協会の芝伐(しばきり)達哉副会長(44)は説明する。「老いによる衰えを家族は認めにくいことがある。病院に来れば良くなると期待が過剰になれば、裏切られた気持ちになりやすい」

 病院が身体拘束を減らしていることへの理解も求める。「ベッドに体を固定すれば落ちないかもしれませんが、そんな不自由な状態を望む患者さんは少ない。療養生活にもリスクはある現実を医療者と家族が共有した上で、より良いケアを探るべきです」(衣川圭)

 ■大腿骨骨折、70代から急増

 入院中の患者の転倒やベッドからの転落による骨折が後を絶たないのはなぜだろうか。まず考えられるのは高齢による体の衰えだ。骨も年とともにもろくなる。骨粗鬆(そしょう)症財団(東京)などによる調査では、脚の付け根近くの大腿骨の骨折は70代から急増する。90歳以上の女性では、1年間で100人に3人程度に起こると推計される。

 ほかにも認知症で判断力が低下し、無理な動きをして転んでしまうことがある。治療や手術の影響や入院による生活環境の変化も、病院での転倒・転落の原因に挙げられる。

 日本医療機能評価機構の年報によると、2018年の医療事故報告4565件のうち、転倒・転落を含む「療養上の世話」によるものは1553件(34・0%)で最多だった。療養生活の中で負うけがなどが、決して少なくないことを知っておきたい。

 【連絡帳】

 広島県医療ソーシャルワーカー協会 芝伐達哉副会長から

 病院では転倒・転落を減らすため、さまざまな工夫をしています。ですが、1人の患者のそばで24時間見守ることはできません。事故が起きるリスクはあります。医療者は、転倒・転落の危険性がどれくらいなのかなど患者の状態について、患者や家族に丁寧に説明する必要があります。そうしてリスクに対する互いの「認識のずれ」をなくす努力を重ねるべきです。

      ◇

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