くらし

第5部 すれ違う医師と患者<3>医療事故が起きたとき

2019/10/6 20:14
病院から受け取った医療事故調査報告書を手にする広島県内の女性。「今も悲しい。でも、病院が過失を認めてくれたから『和解』へ進むことができた」と話す(画像の一部を修整しています)

病院から受け取った医療事故調査報告書を手にする広島県内の女性。「今も悲しい。でも、病院が過失を認めてくれたから『和解』へ進むことができた」と話す(画像の一部を修整しています)

 亡くなるはずのない人が亡くなった―。そんな医療事故が起きたとき、医療機関はどう対応すべきなのだろうか。

 ▽「何があったか」説明包み隠さず

 そうした事故を数年前に経験した広島県内の病院の幹部は「とにかく事実を包み隠さないことを心掛けた。正直な説明と正直な言葉が要る」と当時を振り返った。

 すぐに院内に、医療法に基づく医療事故調査委員会を設置し、外部の専門医も招いて原因究明を進めることを遺族に伝えた。数カ月後、調査の報告書を遺族に手渡して、詳しく説明。「全てがわれわれの責任です」と過失を全面的に認めて頭を下げた。

 「調査は当然のこと」と病院幹部は言う。「元気だった人がなぜ亡くなったのか。遺族には納得できない。われわれも問題点を徹底的に調べる必要があった」。二度と事故が起こらないための対策も調査報告書に盛り込み、どう改めるのか具体的に伝えた。

 「医療事故は、遺族はもちろんですが、病院のスタッフにとっても非常につらいこと。われわれにできるのは、このことを一生の出来事として胸に刻み、今後の医療の安全につなげることです」

 一方、遺族は、家族を失った悲しみや怒りが消えることはない。病院の調査にしても「都合のいいように調べるんじゃないか」という疑念が付きまとう。家族を医療事故で亡くした県内のある女性は「病院にはとにかく、『何があったのか』をちゃんと説明してほしい」と願う。

 この女性のケースは「和解」したが、そのためには何が必要なのか。「過失を認めてもらえるかどうかが大きい。そうでなければ訴訟にするしかなかった」と当時の心境を打ち明ける。

 医療事故にはさまざまなものがある。薬の取り違え、誤った診断、治療や手術のミス、想定しない病状の出現…。ただ、そうした事故の全てが報告されているわけではない。

 医療事故調査制度が始まって4年になる。対象は「予期しなかった死亡や死産」で、今年8月末までの事故の報告件数は全国で累計1472件。この数字は、当初の試算の4分の1程度にとどまる。

 その事故を「予期したかどうか」が、それぞれの医療機関の判断に任されるため、報告にばらつきが出ている実情がある。広島県医師会の医療安全担当理事を務める渡辺弘司医師(65)=呉市=は「制度に該当する可能性がある事例は積極的に報告するのが望ましい。ある程度のデータが集まらないと、本来の目的である事故の再発防止に役立たない」と指摘する。

 制度にのっとって報告をしないことを遺族が「事故隠し」と受け取れば、不信感を増幅させることになる。調査の報告は、遺族にとって「何があったか」を理解するための大切な手掛かりでもあるからだ。

 医療訴訟などに詳しい石口俊一弁護士(67)=広島市中区=は、医療事故調査制度について「医療機関側は自分たちの責任を追及する材料をつくる制度みたいに思う傾向があるが、変わっていかないといけない」と強調する。「十分に説明をすれば多くのケースは紛争、訴訟にはならないのではないか。遺族の納得を得られるよう努めることも、医療機関の責務です」(林淳一郎)

 ▽医療事故調査制度とは 「予期せぬ死亡例」が対象

 医療事故調査制度はどんな仕組みなのだろう。対象は、ミスの有無にかかわらず、医療機関が「予期しなかった」と判断した患者の死亡例。手術や投薬、検査などが原因か、その疑いがあるケースも含まれる。

 調査する場合、まず遺族に説明し、日本医療安全調査機構(東京)に報告する。院内調査を進め、結果を遺族に伝えた上で、機構に報告する。

 遺族は調査結果に納得できないとき、機構に再調査を依頼できる。制度が始まって4年。これまでに報告された調査結果の1割に当たる102件が再調査の対象になり、うち83件は遺族が依頼した。

 昨年末までの中国5県の事故の発生報告件数は、広島23件▽山口8件▽岡山13件▽島根9件▽鳥取8件。全国では1234件で、原因は手術=分娩(ぶんべん)を含む=の595件が最も多く、処置(胃ろうの交換など)142件、投薬・注射(輸血を含む)99件が続いた。

 【連絡帳】

 広島県医師会の医療安全担当理事 渡辺弘司医師から

 医療者は医療事故調査制度の狙いを理解し、活用してほしい。死因が分からない事例は積極的に報告して検証しないと、全体の事故防止につながらない。制度によらずとも、患者側の疑問には誠実に対応するべきです。医療は不確実で難解。医師の「常識」が分かってもらえないこともあります。患者側の意をくみ、応える姿勢が、互いの対立を防ぐのではないでしょうか。

    ◇

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