くらし

対話と思索の場、山あいへ寺へ 哲学カフェ、中国地方で広がる

2019/10/12 19:35
井仁の棚田を望むカフェであった哲学カフェ。草間さん(左から4人目)を進行役に意見を出し合った(広島県安芸太田町)

井仁の棚田を望むカフェであった哲学カフェ。草間さん(左から4人目)を進行役に意見を出し合った(広島県安芸太田町)

 「優しさって何?」「なぜ人は争うの?」。普段なかなか語り合わないようなテーマについて、対話と思索を楽しむイベント「哲学カフェ」が中国地方で裾野を広げている。街中で開かれることが多いが、住民の要望に応えて、山あいのカフェや地域の寺院も会場になる。物事の本質に迫る対話に引かれ、遠路はるばる各地の哲学カフェに参加する「ツーリスト」も現れている。

 窓の向こうに「日本の棚田百選」の雄大な景観が広がる。広島県安芸太田町の井仁(いに)の棚田そばのカフェが9月中旬、哲学カフェの会場になった。

 テーマは「価値があるってどういうこと?」。いつもは広島市中心部で「ひろしま哲学カフェ」を運営する会社員の草間さゆりさん(30)=大阪府豊中市=を進行役に、同町や東広島市などの11人が約2時間、思索にふけった。

 「かけがえのないものに価値を感じる」「そもそも価値のないものってあるのかしら」…。目の前の井仁の棚田の「価値」も話題に上り、対話は深みを増していく。草間さんは「沈黙も何度かあった。街中とは違う景色を眺めながら、みなさん、ゆっくり考えられたんじゃないかな」と話す。

 ▽「出張します」

 東京出身の草間さんは大学で教育哲学を学び、哲学カフェを全国展開する市民団体「カフェフィロ」の会員でもある。2年前に転勤先の広島市内で哲学カフェを始め、昨年末に大阪へ転勤後も月1回のペースで開いている。「あなたのところへ出張します」―。昨年秋、活動費を募るクラウドファンディング(CF)の返礼メニューに掲げ、開催地の広がりにつながった。

 CFの呼び掛けに応じた一人が、安芸太田町の倉田達子さん(56)だ。「地元の人にも、じっくり考え、対話する楽しさを体感してほしくて」と語る。自然豊かな同町へ広島市内から夫と移住して7年余り。「町外から来る人には町の魅力に触れてもらえる。ちょっとした地域おこしにもなると考えたんです」

 ▽地域の味を堪能

 対話には、北九州市の自営業細川正弘さん(61)も車で駆け付けた。2年ほど前から会員制交流サイト(SNS)で知った広島、尾道市の哲学カフェに通うツーリストだ。「初めて出会う人とも意見を交わせる。非日常的な時間を過ごせてリフレッシュできます」と魅力を語る。哲学カフェに先立ち、希望者が広島県北の郷土料理の角ずし作りも体験。地域ならではの味も心ゆくまで堪能した。

 草間さんはCFを機に今年、岩国市の古民家カフェと大竹市の西念寺でも哲学カフェを開いた。「その場その場で雰囲気がずいぶん変わってくるし、考えたい人が集まれば、どこでもできるのが哲学カフェ。日頃の雑談や会議、親しい人との会話はストレスを感じてしまうこともある。より自由な対話の場を提供していきたい」と力を込める。

 ▽市民団体が全国展開 パリ発祥、日本は2000年ごろから

 哲学カフェは、1992年にフランスの哲学者がパリのカフェで市民と対話したのが始まり。日本では2000年ごろから「実践の哲学」として広がり、全国展開する市民団体もある。

 カフェフィロはその一つだ。05年、大阪大大学院臨床哲学研究室の関係者たちが結成した。副代表の松川絵里さん(39)=岡山市北区=は岡山、尾道市などで進行役を務める哲学者。しつけやママ友関係をテーマに子育て家族が語り合い、医療者や患者が対話を重ねる哲学カフェもある。

 「常識と思っていたことや自らの暮らし、取り巻く社会を見つめ直す場になり得る」と松川さん。各地の主な開催スケジュールはホームページ(http://cafephilo.jp/)で紹介している。(林淳一郎)

この記事の写真

  • 倉田さん(左)に教わり、角ずし作りを楽しむ参加者=広島県安芸太田町(草間さん提供)
  • 西念寺での哲学カフェ。対話は予定の2時間を超えて続いた=5月、大竹市(西念寺提供)

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