くらし

台風19号、人ごととは思えない 西日本豪雨、よみがえる記憶

2019/10/17 20:00
台風19号の被害をテレビで見る男性。「西日本豪雨のときを思い出し、つらくなる」と話す(三原市本郷町船木の自宅)

台風19号の被害をテレビで見る男性。「西日本豪雨のときを思い出し、つらくなる」と話す(三原市本郷町船木の自宅)

 東日本に記録的な大雨をもたらした台風19号の報道が続く中、昨年7月の西日本豪雨の被災者には、当時のつらい記憶をよみがえらせる人が少なくない。不安に襲われたり、眠れなくなったり、心身の不調をきたす人もいる。そんなとき、どんなケアや心掛けが必要なのだろう。

 ▽不安を和らげるには まず深呼吸、そして思いを語って

 「昨年の被災体験が再現されているようで、水害のニュースを直視できない」。三原市本郷町船木の70代男性はこぼす。住宅に流れ込む茶色い水、懸命に泥出しをする人たち…。台風19号の被害を伝える報道を見るたび心が痛む。

 同市では、西日本豪雨による沼田川の氾濫などで約2500棟に浸水被害が出た。男性宅も床上90センチまで水没。家財を買い替え、今年6月にやっと家の修繕を終えた。「これから東日本の被災地も暮らしの立て直しが大変。人ごととは思えない」と気をもむ。

 広島市安芸区矢野東の60代女性は、今回の台風で起きた土砂崩れのニュース映像を見て体がこわばり、思わずテレビを消した。西日本豪雨から1年3カ月。近所の多くの家が土石流で倒壊し、知人を亡くした記憶がよみがえったという。

 「復興が進んで少し前を向けるようになったと思ったのに、また大きな災害が起きた。胸が締め付けられます」。涙をこらえながら話し、遠く離れた被災地に思いをはせる。「昨年は東日本からも多くのボランティアが来てくれた。心配でなりません」

 同じような声は、西日本豪雨の被災者支援を進める広島県内12カ所の「地域支え合いセンター」にも届いている。「川が氾濫する映像がショックで眠れない」「ニュースを見ずに家事で気を紛らわせている」…。土砂崩れが多発した呉市のセンターによると、相談員が巡回訪問をした際、十数人が台風19号の被害について不安を漏らした。

 西日本豪雨後、被災者のカウンセリングをしてきた三原市の臨床心理士、木原庸子さん(68)は「災害の報道に、自らの被災体験がフラッシュバックしたり、身近な所で起きた災害のように感じて落ち込んだりする人は少なからずいる」と話す。今回も台風19号の被害状況が報じられる中、「胸がどきどきした」と動揺した住民の話に耳を傾けている。

 木原さんは「まず深呼吸や腹式呼吸をしてみて」と勧めている。不安に駆られると、体に力が入ってしまう。ゆっくり息を吐き出すことで、心身の緊張が和らいでリラックスできる。

 さらに促すのは「怖い」という感情を言葉にしてみること。「理解してくれる家族や友人に語ってほしい。胸の内を共有できる人の存在は大きな支えになるはずです」とアドバイスする。

 被災者の心のケアに詳しい精神科医の桑山紀彦さん(56)=神奈川県海老名市=は「ほかの地域の災害を目の当たりにして、自身の被災体験が思い起こされるのは自然なこと。でも、つらいからといって、記憶の奥に潜り込ませるのはよくない」と話す。東日本大震災や熊本地震の被災地をはじめ、昨年夏の西日本豪雨後は三原市内の避難所にも訪れており、各地で出会った人たちを心配する。

 豪雨から1年余りたっても、今回の台風などの被害報道を見られない人は、心的外傷後ストレス障害(PTSD)の部分症状の可能性がある。つらい体験を回避しようとする症状だ。深刻になると、悪夢を見たり、不眠になったりする。高血圧などにもつながりかねない。

 そうならないよう、桑山さんも「語ること」を重視する。家族や知人に被災体験を時系列で話す。いつ雨が降り始め、増水してきたか…。怖かったけど、避難できてほっとしたなど、そのときの感情も振り返ってみる。「記憶と感情の整理ができてくると、つらく苦しかった経験に向き合えるようになる」。聞く人も諭したりせず、うなずき、親身になって受け止めることが大切という。

 「遠くで被災した人たちに共感する気持ちも大事にしてほしい」と桑山さん。ボランティアで支援に行っても、募金に応じて後押ししてもいい。「わが事と思い、分かり合おうとすることが、心に余力が生まれている証しです」(林淳一郎、ラン暁雨)

この記事の写真

  • イラスト・本井克典

上記の写真をクリックすると拡大して表示されます。

  • 前の記事へ
  • 次の記事へ

 あなたにおすすめの記事

くらしの最新記事
一覧