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地域の病院、将来像は 医療構想の必要性、3氏に聞く

2019/11/19 19:48
さこい・まさみ 外科医師を経験し、旧厚生省に入省。06年から3年間、広島県福祉保健部長、健康福祉局長を務めた。厚生労働省では医療課長などを経て、18年から現職。

さこい・まさみ 外科医師を経験し、旧厚生省に入省。06年から3年間、広島県福祉保健部長、健康福祉局長を務めた。厚生労働省では医療課長などを経て、18年から現職。

 これからの病院の在り方を示す「地域医療構想」。9月に厚生労働省が、急性期病床の「再編・統合」の検討を必要とする424の公立・公的病院の名前を公表したところ、地域の医療関係者や自治体に驚きや困惑が広がった。この地域医療構想はなぜ必要なのか。この構想に詳しい3人に聞いた。

 ■厚生労働省 迫井正深官房審議官(57)

 ▽「介護含めた支え合いを」

 424の病院名を公表した時、それらの病院を一律になくすのではないかという受け止めが広がってしまいました。でもそれは、事実と違います。地域で必要とされている病院をなくすことなど、考えてもいません。情報の出し方や説明の仕方について、配慮が足りませんでした。

 しかし、地域の病院が今のままでいいわけではありません。将来世代に必要な医療を提供し続ける体制づくりはまったなしです。医療は地域と一緒に歩むもの。地域住民と課題を分かち合い、何が必要かを考えるときです。

 医療を取り巻く状況は、ジェットコースターのように激動しています。日本全体では2040年に向けて高齢者が増え、医療のニーズはむしろ高まります。一方で人口減少のため働き手は減るため、厳しい状況が待ち受けています。

 さらに、求められる医療の形も変わっています。例えば、高齢者の病気ではがんも少し増えますが、骨折や肺炎、脳卒中などが主体になります。多くの高齢者が必要としているのは、リハビリや在宅診療などです。「治す医療」から「治し支える医療」への転換が求められています。

 こうした大きな変化に備えなければなりません。現状を分析すると、患者の病態と入院している病床のミスマッチが見えてきました。急性期病床は、集中的な治療が必要な患者を対象としているはずなのに、症状の落ち着いた患者も入っている。多くのスタッフが必要な急性期の病床が多すぎるようです。患者のニーズに合った数に減らせば、そこのスタッフに、人手の足りないところで活躍してもらえます。

 医療の世界では高度で密度の高い医療、いわゆる「急性期」を重視し、病気を治すことに目を向けてきました。しかし、多くの高齢の患者が必要としているのは、生活に寄り添う「赤ひげ先生」の視点ではないでしょうか。医療だけでなく、介護や日常生活の支援を含めた支え合いの仕組みを、地域ごとに作り上げていく「地域包括ケア」が大切です。

 病気を治すだけでは生活が成り立たないことは、地域の人も気付いているはずです。高度な治療を一生懸命している大病院の医師に、生活環境まで考えたアドバイスを求めるのは難しい。役割を分担しながら地域全体としてバランスの取れた医療を提供できる体制をつくる必要があります。

 ■県立広島大地域医療経営プロジェクト研究センター 西田在賢センター長(65)

 ▽「無駄な病床と医療増えた」

 43兆円にまで膨らみ続けた国民医療費を「もったいない」と見ているだけの時期はとうに過ぎました。この40年、毎年だいたい1兆円ずつ増えています。保険料や患者の窓口負担で賄われているのは6割で、残りは国債や税金の公費で補っています。歯止めをかけるために欠かせないのが地域医療構想です。

 なぜなら日本の医療の一番の問題は、病院と病床が多すぎることだからです。1985年の医療法改正で、実質的に地域ごとに病院の開設や増床を制限することを決めました。この頃から医療提供の体制はおかしいという課題意識はあったのです。しかしこの時、何が起きたかというと「駆け込み」による病床の急増でした。

 病床があっても使わないと収益は上がりません。そうなると医療の提供する側が無理やりに需要をつくり出すことも起こり得ます。医師から治療法などを提案されると、ほとんどの患者は「はい」というしかありませんよね。

 こうして無駄な病床が増えたようです。いち早く無駄を廃し、機能別に適正な病床数にしなければいけません。

 高齢化や、高額な薬の登場といった医療の高度化の影響はもちろんありますが、無駄な医療も医療費を押し上げています。福祉国家を掲げた英国は1976年、社会保障費が膨れ上がって財政破綻しました。日本の借金も既に1100兆円に達し、国民総生産(GDP)の2倍という危機的な状況です。

 そもそも日本は諸外国と比べて病床が多すぎます。千人当たりの病床数は13・1床で米国の4倍、英国の5倍です。欧米と同じように、病院は医療的に必要なときだけ入院するという原則に立ち戻るべきでしょう。欧米では地域のクリニックが病院での治療が必要かどうかを判断するのが一般的です。

 国が424病院を公表したのは、ショック療法を期待したのかもしれません。それだけ対策のリミットは迫っています。財政破綻すると、国民が受ける医療を制限せざるを得なくなるからです。一定の年齢になると、医療保険で使える薬を減らされることもあり得るのです。

 地域医療構想を実現することが、医療の破綻を防ぎます。その地域に合った形で必要な医療や介護、生活支援などが確保される「地域包括ケア」の仕組みは、高齢社会を持続する一つの道です。

 ■広島県病院協会 檜谷義美会長(72)

 ▽「住民が安心できる体制大切」

 厚生労働省が公表した424病院のリストは、広島県内でも波紋を広げました。自分の住む地域の病院が、突然、実名で発表されました。住民も病院のスタッフも、病院がなくなるのではないかと不安に思ってしまうのは当然でしょう。

 個々の病院について考えると、信頼して来てくれている患者さんも、スタッフも守らないといけません。病床を減らしてくださいと言われて、すぐに「はい分かりました」とは言えないのです。

 一方、私たち医療者も、社会保障費が今のまま増えると国が持たないということは分かっています。医師や看護師も不足しています。人口減少によって病床の利用率は下がり、経営のために適正な規模を判断する時期も迎えています。地域の住民が安心できる医療提供体制をつくらないといけません。

 広島県でも急性期の病床が過剰になっています。ただ、実態よりも多く報告されている状況があるとも言われます。例えば、慢性期の患者を中心に診る病院でも、救急車を受けていたら急性期と名乗りたい気持ちは、同じ医師として分かります。急性期と冠した病床がなくなると、「救急車を受けても患者さんは信頼してくれないのでは」「スタッフのモチベーションが下がるかもしれない」と考えるのです。

 日本全体では2040年に向けて高齢者が増えます。誰にでも徹底的な治療をするのではなく、年齢や体力に合った無理のない治療の必要性が高まっています。手厚い看護体制を敷いた急性期の病床に、集中的な治療の必要ない人まで入院しているということも、データで出ています。必要のない医療は控えるというのは当たり前です。

 でも、強制的に急性期病床を減らすと地域の医療はぎくしゃくします。公と民が競合しないような調整が必要です。広島県内の公立病院には、地区の医師会と話し合った上で急性期を減らし、慢性期の地域包括ケア病床をつくったところもあります。今後はこうした地域のニーズに合わせた対応がもっと必要になります。

 広島県では、スタッフの数が急性期より少ない回復期の病棟でも、救急車を受け入れているならば「地域急性期」と言えるように話し合っています。25年に間に合わなくても、地域全体の納得を重視して進めるべきです。公平に協議する場である地域医療構想調整会議の役割は大きいと感じています。

 □地域医療構想とは 「急性期」病床減らし「回復期」増やす

 そもそも地域医療構想って何だろう。見据えているのは2025年だ。団塊世代の全員が75歳以上となり、医療と介護のニーズが膨らむ。このタイミングの医療ニーズを踏まえて、構想は地域ごとに目指すべき医療提供の形を示す。

 国は、患者の状態に合った病床で、より良い医療サービスを受けられる体制をつくる必要性を指摘する。言い方を変えると、重症患者向けの病床に、そこまで集中的な治療を必要としない患者が入院しているケースがあるということだ。

 構想では、病床の機能を(1)集中治療が必要な「高度急性期」(2)一般的な手術などをする「急性期」(3)リハビリなどをする「回復期」(4)長期入院の「慢性期」―に分ける。現状は、全国的に急性期が過剰で、回復期が足らない傾向がある。

 では、構想が想定する地域とはどういった範囲なのか。広島県の場合は、広島▽広島西▽呉▽広島中央▽尾三▽福山・府中▽備北―の七つ。それぞれの区域の地域医療構想調整会議で、現状と将来を見据えて話し合い、病床数の適正化を図ることが求められている。

 広島県の構想で25年に必要とした病床数は計2万8614床。18年の病床数(速報値)と比べると4212床少ない。機能別にみると、高度急性期は1301床、急性期は4327床が過剰で、回復期は4863床足りない。(衣川圭)

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  • にしだ・ざいけん マッキンゼー・アンド・カンパーニー勤務後、電子カルテ開発に携わる。川崎医療福祉大教授、静岡県立大教授などを経て、18年から現職。専門は医療経営学。
  • ひだに・よしみ 沼隈病院(福山市)を運営する社会医療法人社団沼南会の会長。広島県医師会副会長などを歴任し、18年から現職。広島県地域医療構想アドバイザーも務める。

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