くらし

【第1部】われら非正規ワーカー<1> 就職氷河期という「貧乏くじ」

2019/12/17 21:33

 人生100年時代、私たちは「働くこと」とどう向き合えばいいのでしょう。人口減少や人工知能(AI)の進化で、仕事を取り巻く環境が大きく変わろうとしています。「働き方改革」が叫ばれて久しいですが、職場には今も多くの課題が残されたままです。きょうから始まるこの連載。まずは「就職氷河期世代」の人たちが直面する困難に耳を傾けます。(ラン暁雨、林淳一郎)

 ▽心の支えは高校時代の成績表。今はもう輝けない

 ■廿日市市の無職男性(46) 国立大を卒業し、職を転々としている。

 僕、今は無職ですが、国立大を出てるんです。高校も進学校で、東大京大が狙える成績でした。あの頃は何にでもなれると思っていたのに―。同級生には医者、弁護士、経営者と「上級国民」もいて、年に1回の同窓会には怖くて出られません。

 成功者がいるのも事実ですが、でもやっぱり僕らは「貧乏くじ」を引かされた世代だと思います。

 就活したのは山一証券が破綻した年。景気はどん底で、新卒採用を控えた企業も多かった。バブル期や今のような売り手市場なら、いい企業を狙えたはずですが、僕は30社近く受けて、ほとんど落ちました。

 ようやく内定が出た企業は、過酷でした。採用人数を絞って仕事量が増え、ぎすぎすしていたんでしょうね。過剰なノルマを課されました。個人の売上額が毎朝ファクスで届き、成績が悪いと同僚の前で「公開処刑」です。耐えられず1年足らずで辞めました。

 その後、10社以上で働いたけど、どこでも消耗品のような扱いを受けました。「代わりはいくらでもいる」「不満なら他に行け」と散々言われました。突然解雇されたこともあります。家族持ちは生活があるからと、20代だった僕らが切られました。就活と同じように、上の世代の雇用を守るために犠牲になったんです。「氷河」はずっと解けないままです。

 最近、国が「氷河期世代の支援」とか言い出したけど、この年でどう再チャレンジすればいいんでしょうか。社会に出た時は不況で、景気が回復したら年を取り過ぎていて。巡り合わせが悪いですよね。

 世の中から見捨てられ、「透明人間」のようです。だから僕、いつも高校時代の成績表を持ち歩いているんですよ。10段階評価で8以下がないでしょ。ハローワークの担当者にも見せるんです。輝いていた時代を唯一証明できるものだから。

 ▽真面目に仕事したのに…。こんな「使い捨て」許されるんですか

 ■広島県西部の無職女性(45) 1カ月前に派遣切り。今は求職中。

 ある日、派遣会社の担当者がやって来て「契約の更新はありません」と一言。それで終わりです。2年11カ月勤めた自動車関連の工場で、突然の雇い止めでした。部品の点検の仕事を、誰よりも真面目にした自負があるのに。上司から直接雇用の話も出てたのに…。こんな「使い捨て」、許されるんでしょうか。

 私たち氷河期世代の未婚女性は派遣社員だらけ。養ってくれる人がいないから、働き続けないと生きていけない。失業=貧困ですよ。なけなしの預金100万円を食いつぶす日々です。美容院も年1回しか行かなくていいように、髪は長くして結んで。おしゃれしたい気持ちがなくなったのはいつだったか。

 転勤が嫌で正社員だった雑貨販売の会社を辞めてからは、ずっと派遣です。環境もひどかった。派遣切りされた工場は、夏はエアコンも効かない暑さで、同僚が脱水症状でばたばた倒れる。帽子とマスクで作業するので同僚の顔も、名前も分からない。会話もない。私たち、意思も感情もないロボットみたいでした。

 それでも時給は1100円だったのでまだましでした。先日、紹介されたのは890円のレジ打ちで、交通費もなし。体力も落ちたので事務職が理想ですが、狭き門です。若い頃から受験も就職も厳しい競争だったのに、この年になっても若い人と少ないパイを奪い合っているなんて…。勝ち目はありません。

 ▽「こんな簡単な仕事ができないの」。 20代の正社員に言われる

 ■広島市の派遣社員女性(44) 「つなぎ」のつもりの派遣がもう10年以上。正社員に返り咲けない。

 歯車が狂ったのは、新卒で働き始めてすぐのことです。三重県出身で、私立大を卒業したのは1998年。超氷河期で、男子以上に女子の求人は少なかった。地元の中堅スーパーに採用されたのは「御の字」でした。でも、入社式で社長は開口一番「君たちは今日からリストラの対象」と言い放ったんです。

 長引く不況で、人件費をカットしたかったんでしょうけど、あぜんとしました。配属された系列のレストランは慢性的な人手不足で休みは月3、4日。残業代も出ない。時給換算すると余裕で最低賃金を下回っていました。過労で1年持たずに退職しました。

 「モーレツ社員」だった父親は正社員以外は認めず、けんかが絶えませんでした。それもあって、30歳を過ぎた頃に広島へ。人生をリセットしたかったけど、何社受けても不採用。希望は砕けました。若さもスキルもない女には、正社員は果てしなく高い壁になっていました。

 派遣人生はつらいですよ。自分よりずっと若い20代の女性正社員に「こんな簡単な仕事ができないの」「給料泥棒」と嫌みを言われます。就活に苦労しなかった若い子には、私の現状は「自己責任」と映るんでしょう。時給は上がらず、条件のいい求人も減る一方。世間は働き方改革で残業代も稼げなくなって大打撃です。

 広島市中心部はランチ代も高いのでお弁当持参です。このまま一生、収入が増えないと思うとモチベーション上がらなくて…。普通の人でも真面目に働けば報われる社会って、高望みなんでしょうか。

 ▽人件費抑えて労働力確保

 ■非正規労働者

 パートやアルバイト、契約・派遣社員として働く人たちだ。総務省の就業構造基本調査によると、いまや全国で2千万人を超え、働き手の4割近くを占める。

 国は「正規雇用」の3条件を満たさない働き方を「非正規雇用」としている。条件とは、(労働契約の)期間の定めがない▽フルタイム▽直接雇用―。つまり、正社員のように「いつでも、どこでも、何でもやる」のではなく、限られた期間や短い時間で働く人たちが該当する。

 これまでに政府が進めた労働者派遣の規制緩和なども、非正規雇用の増大に拍車を掛けた。雇う側からすれば、人件費を抑えて労働力を確保できる。不況になれば、雇用の「調整弁」にされる。象徴的なのが、リーマン・ショック(2008年)後の「派遣切り」だ。

 正規と非正規では大きな格差がある。例えば、正社員の平均年収は約500万円。一方、非正規で働く男性の約6割、女性の約8割が年収200万円未満にとどまる。

 もちろん、長時間労働や転勤を嫌って、あえて非正規を選ぶ人もいる。一方で、見過ごせないのが「不本意非正規」だろう。正規の仕事がないため、望まずして非正規で働く人たちだ。全国で約270万人に上り、安定雇用にたどり着けない人は依然として多い。

 ▽バブル崩壊の荒波かぶる

 ■就職氷河期世代

 バブル崩壊後の景気悪化が続いた1993〜2004年ごろに学校を卒業し、就職難にあえいだ世代で、約1700万人。大学新卒者の就職率は03年に史上最低の55・1%を記録し、正社員の座をつかめなかった人は少なくない。

 現在、30代半ば〜40代半ばを迎えた。このうち約390万人は非正規で働いている。4人に3人が年収200万円に満たない低収入という実態も浮かぶ。いまだ新卒一括採用が色濃い日本では、非正規から抜け出すのは容易ではない。

 この世代の「不本意非正規」も約54万人に上る。国は今年、支援プログラムをまとめ、3年間で正規雇用を30万人増やす目標を掲げている。仕事や子育てをしながらの資格取得や民間ノウハウを活用した教育訓練・職場実習をはじめ、ハローワークに専門窓口を設置。きめ細かな「伴走型支援」などに予算を投じる方針だ。

 ▽氷河期世代の体験談お寄せください

 就職氷河期に社会に出て辛酸をなめた「貧乏くじ世代」の現状をどう思いますか。自分もその一人だという当事者やご家族の体験談はもちろん、どんなサポートが必要なのかご意見をお寄せください。LINE「中国新聞くらし」のアカウントへの投稿も歓迎します。

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