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筋電義手、笑顔の支え 肘から先がなくても、指先まで思うように動かせる

2020/1/10 19:50
「できることが増えると、新しい発見もある」。そう語り合う百音さん(左)と宏美さん

「できることが増えると、新しい発見もある」。そう語り合う百音さん(左)と宏美さん

 ▽尾道の植田百音さん。できることがぐんと増え「いろいろ挑戦したい」

 靴ひもを結ぶ。フライパンを振って料理する…。生まれつき左肘から先がない尾道市の日比崎小6年植田百音(もね)さん(11)には、したくてもできないことがたくさんあった。でも2年前、思うように指を動かせる「筋電(きんでん)義手」が届いて、できることがぐんと増えた。「いろいろ挑戦したい」。百音さんの笑顔を、家族や義肢装具の専門家たちが温かく支える。

 うっすら義手の指先が黒くなっている。「学校でも家でも使うから」。クラスメートと一緒に教科書を開いたり、家庭科で裁縫をしたり。夕食の食器を洗って拭き、洗濯物も干して家事を手伝う。毎日の暮らしの中で両手を使う動作はいっぱいある。一番うれしかったのは「靴ひものちょうちょ結び」とほほ笑む。

 筋電義手は、筋肉に生じる電気信号を感知し、電動で手を握ったり開いたりできる。百音さんは2年前の春から使い始めた。高性能なドイツ製。約150万円もする。

 障害者総合支援法に基づく国の補助制度で、自己負担額は原則1割だが、審査は厳しい。使いこなせるよう、理学療法士や医師と長期トレーニングを重ねないといけない。日常生活で筋電義手が欠かせないという証明も要る。義手全体の補助件数が全国で年間千件を超す一方、筋電義手を含めた「特例補装具」は20件前後にとどまる。

 「不自由はあっても、いろんな経験をしてほしいと思ったんです」。母親の宏美さん(38)は、百音さんが生まれてすぐ専門書などを読みあさり、筋電義手を知った。「サポートしてくれる先生たちと出会って、百音もくじけずにトレーニングを頑張りました。恥ずかしがり屋だけど、負けず嫌いなところもあるから」と振り返る。

 支えてくれたのは、広島都市学園大健康科学部リハビリテーション学科(広島市安佐南区)の大塚彰教授(70)=義肢装具学=たちだ。5年前まで、尾道市から近い県立広島大三原キャンパスの教授だった。百音さんを知るリハビリの医師を通じて出会った。

 筋電義手のトレーニングは、小学3年から三原市内の病院でスタートした。パソコンの画面上で筋肉の電気信号を調べていく。もともと左手がない百音さんにとって、指を動かす感覚を身に付けるのは容易ではない。つかむ力の制御も。実際の筋電義手でスポンジをつまみ上げる練習などを繰り返し、ようやく百音さん専用の義手が完成した。

 ただ、筋電義手の普及には課題も多い。高額なのに加えて、トレーニングの場も限られている。大塚教授は「サポート態勢はもちろん、いかに安く、機能の高い筋電義手を開発していくか。企業や行政との連携も欠かせない」と話す。

 百音さんは日々、筋電義手のトレーニングに取り組んでいる。最近は、ミシンを使って花柄の手提げかばんを仕上げた。自宅の台所でフライパンを握り、いり卵を作ったときは、驚く家族の顔に囲まれ「どや顔」で笑ったそうだ。

 小学2年から地元の陸上クラブで100メートル走や走り幅跳びなどの練習にも汗を流す。東京五輪・パラリンピックが近づき、夢も膨らむ。「将来は陸上選手になりたい。チャレンジするのはすごく楽しい」。そう打ち明ける百音さんを、宏美さんが抱き寄せる。

 ▽障害者の「自助具」を手作り 百音さん支援、広島都市学園大・大塚教授ら

 百音さんを支える広島都市学園大の大塚教授は、障害者の生活に役立つ「自助具」の手作りボランティアにも取り組んでいる。企業を退職した三原市内のエンジニアたちと1996年秋に結成した「みはらタコ工房」。三原名物のタコのように柔軟な支援を目指し、現在約10人のメンバーで活動する。

 市販のビニールパイプや金具などを利用し、要望を聞きながら作る。費用は原則、材料代だけ。柄の角度を変えられるフォークは腕が不自由な人も口元に運びやすい。牛乳パックを木製の台に固定して片手で開封できる道具、肘で押して爪を切る装置…。これまでに約100種類を手掛けた。

 百音さんの自転車のハンドルも作った。蛇腹のソケットを付け、左肘を差し込む仕組み。転びそうになると、肘が抜ける。右手だけで前後の車輪にブレーキがかかる工夫も凝らした。

 三原市社会福祉協議会などの協力もあり、「注文」は広島県内に広がっている。大塚教授は「暮らしがより快適になるよう後押しをしていきたい」と力を込める。(林淳一郎)

この記事の写真

  • 洗濯物を干す練習(植田宏美さん提供)
  • 靴ひもをちょうちょ結び(植田宏美さん提供)
  • メンバーと自助具作りに取り組む大塚教授(奥左)

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