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【この働き方、大丈夫?】第1部 われら非正規ワーカー<8> 企業の人材育成

2020/1/13 18:56
マネジメントゲームに取り組むペアコムのパート女性たち。梨木社長(中央)がアドバイスを送る(福山市)

マネジメントゲームに取り組むペアコムのパート女性たち。梨木社長(中央)がアドバイスを送る(福山市)

 「使い捨てのよう」。取材では、非正規で働く人たちのそんな声を何度も聞きました。「安い労働力」ではなく、正社員と分け隔てなく「人材」として育てていくのは、企業にとって難しいことなのでしょうか。スキルや持ち味を磨く社内研修、キャリアアップできる仕組み…。連載第1部の締めくくりに、そうした取り組みをクローズアップします。

 ■パートにも多彩な研修/正社員登用の道を準備

 福山市で電子機器を製造するペアコム。昼下がりの社員食堂で、パート女性4人が卓上のマネジメントゲームに励んでいた。それぞれ「社長」になり、材料の調達から生産、販売などを取り仕切る。収支も計算し、1年間の「経営」を1、2時間で体験できる。

 「数字に強くなり、意思決定力や自信がつく。楽しみながらコミュニケーションも深まるんです」。梨木健太郎社長(62)は手応えを感じているという。

 従業員は69人で、うち58人がパート。この人たちの能力を上げないと成長はない―。「学ぶ会社」を掲げて20年以上続けているのが、マネジメントゲームなどの多彩な社内研修だ。

 大切にしているのは、一人一人が自発的に取り組むことだ。溶接技能やパソコンスキルの習得、業務改善の提案…。従業員がつくる13の委員会が研修を運営する。「任せることで責任感が湧く。『なぜパートの私が』との声もありましたが少しずつ定着してきた」と梨木社長。研修を受けると報酬が出る仕組みも作った。

 「時間をかけても、まっさらな人を育てる」のだという。採用するのは、未経験者のみ。経験上の「慣れ」で不良品が出れば、取引先の信用を損なう。「不良品ゼロ」の目標に近づくには教育しかない、という発想だ。

 パートから正社員への道もある。入社24年目の日谷日砂美さん(59)は、子どもが成長した9年前に正社員になり、現在は製造本部長を務める。「人前で話すのも苦手でしたが、さまざまな研修で知識とスキルが身に付き、それが今につながっている」と話す。

 今年は新たに3人が正社員になる。業務の傍ら半年間のキャリアアップ研修を積んだ。梨木社長は「自分を高めることに喜びを感じてくれる従業員こそが、会社の『人財』になると信じています」と力を込める。

 地場流通大手イズミ(広島市東区)の子会社、ゆめカード(東区)も、社内研修に力を注ぐ。「パートナー社員」と呼ばれるパート女性たちもその対象だ。

 従業員359人のうち92人。イズミが展開する店舗のカウンターなどで、主に新規のクレジットカード受け付けや変更手続きを担う。「接客の最前線に立つスタッフ。スキルを伸ばしてもらえば、お客さんが来たい店になる」と管理部の吉田健児部長(43)は話す。

 学んでもらうのは、クレジット関連の業法やビジネスマナーの知識とスキル。資格を取りたい人には費用を補助する。接客応対の全国大会への出場も促し、他社の接客レベルに触れる機会をつくっている。

 正社員にステップアップする道も用意する。時給やボーナスが上がるS級パートナー社員や月給制の嘱託社員を経て、昇格試験に挑む。制度を導入した2004年以降、約50人が正社員になったという。吉田部長は「自ら手を挙げてチャレンジしてほしい。時代のニーズに応えるには、働く一人一人の意欲が欠かせない」と強調する。(林淳一郎)

 ▽中国生産性本部・西川さんに聞く 働く側の主体的な学びを

 企業の人材育成はどうあるべきなのか。中国生産性本部(広島市中区)の人材育成プロデューサー西川三佐子さん(52)に聞いた。

 人材育成への投資は、業績を上げるプロセスで大切な要素です。正規、非正規の雇用形態にかかわらず、人を育てないと企業自体も強くなりません。社内外での研修や正社員登用などの仕組みが要ります。その結果として利益が生まれる。経営者は忍耐強く取り組むべきです。

 職場の上司、つまり管理職が、働く人の強みをキャッチできているかどうかも大切です。企画力にたけた人もいれば、データ処理が得意な人もいます。うまくチームを組めば組織の生産性が上がる。売り上げだけではなく働きがいや顧客の満足度にもつながります。

 また、働いている一人一人に考えてほしいのが、自己啓発です。もちろん非正規雇用の人も取り組んでほしい。仕事関連の本を月に1冊読むのもいい。主体的に学び、日々の仕事や研修に前向きに打ち込む。自己投資する姿勢が、企業側から見れば「いてほしい人材」となるわけです。

 働くという「打席」に立つ価値はあります。お金も大切ですが、自分の成長や人生に大きく関わります。私も大手企業の正社員を「もっと世の中を見たい」と思って辞め、テレビ局でADのアルバイトを経験し、ホテルの営業もしました。いろんな考え方を知り、自信がつきました。

 頑張る姿を、誰かが見ています。他部署の人やお客さんかもしれない。人間関係を温めるヒューマンスキルも高めていく働き方を心掛ければ、その努力はきっと報われるはずです。

     ◇

 連載「この働き方大丈夫? 第1部 われら非正規ワーカー」は終わります。

 ▽仕事が結婚・出産の壁になっていますか

 来月に始める第2部は、働き方が不安定なために結婚や出産に踏み切れない人たちの声を紹介する予定です。皆さんの体験談やご意見をぜひお寄せください。匿名希望の場合も連絡先を教えてください。

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  • 西川三佐子さん

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