くらし
【この働き方、大丈夫!】週休3日「手抜き」の幸せ 広島のパン店「ドリアン」田村陽至さん【動画】
「すてきな手抜き」で、働き方改革を進める広島市のパン店「ドリアン」のオーナー田村陽至さん(43)。年明けから、働く時間をさらに短縮する「実験」に取り組んでいる。目標は週休3日。おいしいパンを作って喜んでもらい、ゆとりを持ってニコニコ暮らす―。日本を明るくする「幸せな働き方モデル」を模索中だ。
▽質と量を厳選、良い品を安く 余暇は発酵の勉強や育児に
田村さんが焼くのはハード系のパン。「万人受けはしない」と言うが味わい深く、熱心なファンが多い。週3日営業だった中区八丁堀の店舗は、今年から週2日営業になった。パンを焼く日や定期購入客への発送も含め、働くのは週4日。日数を減らす代わりに、1日に焼くパンの量を増やし、売り上げを維持する。
これまで週6日の午前中だけ働き、午後はオフだった田村さん。人に会ったり、ブログの更新をしたりしていたが、ステップアップのために挑戦したいことが無限にある。だからこそもっと「手抜き」が必要だった。週休3日になれば、小麦や発酵の勉強、後進の指導に充てる時間を増やせる。昨夏に生まれた長男の子育てにも力を入れたい。
パン作りを学びに来る若い研修生にも影響された。20代の彼らは、週4日働いて食べていけると判断すれば、残り1日は趣味などに充てるという発想。「だったら週4日労働でも成り立つビジネスモデルを作ってみよう」と考えた。
田村さんの手抜きを支えるのが、南区の工房にある手作りの石窯だ。2年前に新調した。奥行き4メートル。窯を大きくすることで、1日分の販売量に当たる約100個を1回で焼けるようになった。以前の窯の3倍だ。さらに効率を上げるため、今年からは木・土曜に2日分のパンを焼く。
朝4時。石窯の火入れから作業は始まる。2時間ほどまきを燃やして窯が熱くなったら、前日に仕込んだパン生地を窯の中へリズム良く入れていく。焼き上がるまでに、翌日の仕込みや事務仕事をこなす。注文や仕込みの量はパソコンで管理。全て手書きでやっていた頃と比べると、かなり時短化された。
パンも4種類が基本だ。1、2キロのずっしりサイズ。種類を絞り、大きく成形すると作業が単純化できる。具を入れていないので日持ちもする。
「手抜き」の代わりに材料はベストのものを選ぶ。貴重な国産有機栽培の小麦粉で作ったパンは抜群においしい。「だから大目に見てもらえる。労働時間が減って、お客さんも安く買える。みんなハッピーです」
朝11時、八丁堀の店舗にパンを届けて仕事は終了。1日7時間。かつての半分以下だ。
この発想は8年前、本場・欧州のパン修業で生まれた。1年滞在し、猛烈に働いていた自分のおかしさに気付いた。現地では実力店でも職人が働くのは午前中だけ。シンプルな製法なのに味も価格もかなわない。店側も客も、多少形がふぞろいでも、焦げ目が付いても気にしない。そんな適度な緩さが心地よかった。
「日本人は百点満点を目指そうとあくせくし、消耗している。本来は80点でも豊かに生きていけるんです」と田村さんは言う。わざわざ物事を複雑化して、自分の首を絞めているように感じる。見た目の精度を追求しすぎたり、クレームに過剰反応したり…。
それでは、働き手も社会も疲れ切ってしまう。「だからほどほどに働いて、最終的においしいものができればいいって思うんです。力を抜けば心に余裕ができて、優しくなれる。好循環が生まれますよ」。シンプルな働き方はどこまで進化するのだろう。(文・ラン暁雨、写真・荒木肇)
2019年12月から始まったこの連載。計8部の取材で出会った人は100人以上に上ります。読者からも300件近くの反響が寄せられました。最終回は、先行きが不透明な時代の「働き方」をテーマに多くの皆さん...
私たち働き手はもう、組織に依存ばかりせず、自らの手で仕事のスタイルを選択していくときではないでしょうか。「選ぶ」と「学ぶ」。一人一人が自立して働くためのキーワードとして浮かんできます。 「働くという...
どうすればもっと働きやすくなるのでしょうか。場所や時間にとらわれず、複数の組織で横断的に仕事をする「複業」を上手に取り入れられるかどうかが一つの鍵になりそうです。 一つの組織で生涯働く「日本型雇用」...
人生100年時代、私たちは「働くこと」とどう向き合えばいいのか―。そんな問い掛けから始めた連載計8部の取材から見えたのは、長時間労働に象徴される「日本型雇用」の限界と、組織に絡め取られて「自立できな...
新型コロナウイルスの拡大防止のために自宅でテレワークをする機会が増えると、椅子の座り心地が気になる人も多いだろう。家にある椅子を使ううちに体がつらくなるケースもある。感染状況が落ち着いた後も広がりそ...