くらし
【この働き方、大丈夫?】職場の改革、今すぐに ワーク・ライフバランスの小室淑恵社長
「今すぐ労働環境の改善を進めないと、日本社会は立ちゆかなくなる」。働き方改革の旗手として、千社以上を変革してきたワーク・ライフバランス(東京)の小室淑恵社長(44)は危機感を強める。先月、福山市で講演し「少子高齢化、人材不足は深刻。働き方改革はここ1、2年が勝負」と話した小室さんに、真意を聞いた。
▽内向きの仕事、捨てる決断力を 育児中だけに配慮、不公平感も
―働き盛りの人口が減り、企業を取り巻く環境は激変していますね。
どの職場でも働き手の確保は大きな課題です。時間の制約がある社員を排除する余裕は、もうありません。多様な人材が活躍できる環境を整えた組織だけが生き残れるのです。
それに今の学生は働き方にシビアです。子どもの頃、父親の多忙が原因でけんかする両親を見て「仕事は家族を不幸にする」と考える子もいる。留学先で父親が夕方に帰宅しているのを見て、日本の働き方がおかしいと気付いた子もいます。日本の労働生産性は、主要先進国で最下位。国境を越えて人材を奪い合う中、優秀な学生から選ばれなくなる危機感を持つべきです。
この先、少子高齢化が一気に進んで財政破綻を招くか持ちこたえるかは、団塊ジュニア世代が出産リミットを迎えるこの1、2年が勝負です。ワークとライフの二者択一ではなく、両立できる働き方に今すぐシフトしなければなりません。
―仕事量は減らしていないのに早帰りを促す企業も多い印象です。業務をどう減らしますか。
本質的な改革のために大切なのは、管理職のマネジメント力です。あれもこれも完璧にしようとすると、業務は絶対に減らない。思い切って内向きの仕事を捨てる決断力が要ります。
例えば、毎月ある社内会議用の膨大な資料。さほど読まれていないのに、作成に時間をかけすぎていませんか。「念のために」と数パターン作るよう部下に指示して疲弊させていませんか。会議も2カ月に1回で十分かもしれません。今後は、仕事を減らす提案ができる人が評価される時代になるでしょう。
仕事の属人化も見直すべきです。複数担当制にしてメインとサブを置き、業務の「見える化」を進めると、どちらかが不在でも回るようになります。社員の自己研さんも必要です。小さなことですが、エクセルの操作を一つ覚えるだけで資料作りがぐっと速くなる。工夫次第で残業は減らせます。
―これまでコンサルティングした会社では、長時間労働を減らし、どんな効果がありましたか。
生産性の向上はもちろん、社員の私生活にも明るい変化が起きています。「早く帰宅できるようになって家族との関係が劇的に良くなった」という声が非常に多い。結婚が2倍、出産が2・5倍になった企業もあります。働き方改革は最良の少子化対策です。
家庭生活の充実が仕事にもいい影響を与え、業績が押し上げられる相乗効果も出ています。浮いた残業代を社員に還元する企業もあり、好循環です。
―小室さんも2人の子どもを育てていますね。
起業後ずっと、時間の制約がある中で働いてきました。育児中の社員も多いですが14年間ほぼ増収増益。有休消化率も100%です。皆が自分の「ライフ」を大切にし、良い化学反応が起きています。
ポイントは、男性も含めた職場全体で働き方改革を進めること。多くの企業で目立つのは、育児女性など特定の人だけに配慮する「ワークファミリーバランス」。それではフォローする側の仕事ばかりが増える。不公平感が充満し、「女性の敵は女性」のような現象が起きてしまいます。介護中の社員、妊活や婚活をしたい社員だっている。
全ての人に「ライフ」があることを前提に働き方を見直す、真の「ワークライフバランス」に取り組むべきです。それなしでは業績の向上は望めません。(ラン・暁雨)
どうすればもっと働きやすくなるのでしょうか。場所や時間にとらわれず、複数の組織で横断的に仕事をする「複業」を上手に取り入れられるかどうかが一つの鍵になりそうです。
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