くらし
【この働き方、大丈夫?】客から暴言、店員「怖い」 新型コロナで「カスハラ」横行
新型コロナウイルスの感染拡大によってマスクなどの品薄が続く中、広島県内のドラッグストアやコンビニエンスストアの従業員たちが顧客からの理不尽なクレームに悲痛な声を上げている。「カスタマーハラスメント(カスハラ)」ともいえる行為にどう対応すればいいのだろう。感染の不安が拭えないとはいえ、消費者も意識の見直しが求められそうだ。
尾道市内のドラッグストアの30代店長男性はため息をつく。「毎朝、気がめいってくるんです」。マスクは国内で感染拡大のニュースが増えた2月上旬から品薄に。開店前には20〜30人の客の列ができる。店が開くと客は売り場に走り寄って奪い合う。みるみるなくなり、従業員はひどい言葉を浴びせられる。
「なぜ、わしに売るマスクがないのか。見殺しにする気か」。そう怒鳴りつける高齢者や、品切れのポスターに納得がいかず「けしからん」と怒りをぶつける人もいる。「店員はマスクをしているのに売り場にはないのか」という声も多い。店長の男性は「同僚からの悩み相談が増えた。客も従業員もコロナ疲れですよ」と力なく話す。
広島市内のドラッグストアで働く30代パート女性も「今日は何を言われるのか。不安でストレスがたまります」と打ち明ける。
マスクは1家族1点の購入制限を設けている。守らない客に注意すると「うるさい。倉庫に隠しているマスクを全部出せ」とにらまれた。その客は買ったティッシュやトイレットペーパーを車に積み込み、再び入店して繰り返し購入。「マナーを守らない客にどう注意したらいいのか。本当に怖い」と声を震わせる。
こうした悲鳴は全国で相次ぐ。脅迫まがいの言葉や解決しにくい要求…。カスハラにはっきりとした定義はないが、一線を越えたクレームで消費者の自己中心的な振る舞いとされる。
その矛先はコンビニにも及んでいる。広島市内の50代の本部社員男性によると、商品陳列やレジの袋詰めに対して「素手で触るな」というクレームが届く。店員にアルコール消毒で手の清潔を保ってもらっている。「いくら丁寧に説明しても、お客さんには反論にしか聞こえないようです。どうしたものか…」とこぼす。
接客業を中心に、ツイッター上でつらい胸の内を吐露する店員もいる。「コロナより人が怖い」。そんな声も聞こえてくる。(林淳一郎、ラン暁雨)
■行き過ぎ 罪に問われる恐れ
クレーム対応に詳しい 福永孝弁護士(48)=広島市中区
「カスハラ」の法的な定義はまだないですが、客からの「不相当な要求」が該当すると考えられます。新型コロナウイルスのケースでは例えば、店でマスクの品切れの説明を受けたのに、大声で繰り返しマスクを求めると「不相当」になります。
行き過ぎると罪に問われかねません。店の業務をストップさせれば業務妨害罪、言葉の内容次第で侮辱罪の可能性もあります。店員が心を病んで、損害賠償請求されるかもしれない。店側が「お客さま」に遠慮して我慢しているのでしょうが、カスハラは罪になり得ることを知ってほしい。
政府は15日からマスクの転売禁止に乗りだしました。違反すれば罰則もあります。原則、売り買いは自由ですが、市民の間でのトラブルが政府の規制を招いたのです。売る側も買う側も自由が奪われてしまうのは、将来的にみて望ましいとはいえません。
感染への不安を拭うのは容易ではない。でも、この緊急のときこそ、互いに自制する心掛けが求められるのではないでしょうか。
■不安あおらない情報提供を
広島国際大心理学部 西村太志(たかし)准教授(44)=東広島市
新型コロナウイルス感染症の不安が広がる一方、対策をしようにもマスクなどが不足し、手に入りにくい。切迫感で心の余裕がなくなり「カスハラ」のようなクレームを店員にぶつけているようです。
クレームを攻撃行動と考えると、たいてい「引き金」となる刺激があって不満は爆発します。例えば、自分はマスクを買えないのに、目の前の店員はせきエチケットで着けている。そこで「なぜ私にはないのか」と攻撃的になってしまうのです。
マスクなどが「ない」ことをいかに理解してもらうか。店員が一方的に謝っても共感を得にくい。入荷量や時期がはっきりしないのなら、それを丁寧に伝える。入荷状況が分かれば言葉や掲示で説明する。過度な不安をあおらない情報の出し方が大切です。
買う側も現状をよく見つめてほしいと思います。店員も同じように不安かもしれないし、悪気があってマスクを売らないのではないはずです。相手の気持ちをくみ取ることが、トラブルを防ぐ一歩になります。
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