くらし

介護保険20年、増える高齢者 制度を維持するには

2020/3/31 20:38
北川朝子さん

北川朝子さん

 ▽当事者・事業者・研究者、識者3人に聞く

 2000年に始まり20歳を迎えた介護保険制度は、支える高齢者の数が膨らみ続け、このままでは立ちゆかなくなりそうだ。制度を維持していくためには、どんな視点が必要なのだろう。家族、事業者、研究者として介護に向き合ってきた3人に聞いた。(衣川圭、田中美千子)

 ▽家族支える視点を大切に NPO法人家族介護者 サポートネットワーク・はぴねす 北川朝子代表(60)=広島市安佐北区

 介護する家族としては、介護保険制度があって大変ありがたかったと感じています。要介護5の母と2人暮らしでした。最期まで自宅で一緒に過ごせたのは、通所介護や訪問介護のサービスを使えたからです。

 ただ制度は十分ではありません。要支援1や2では、使えるサービスが限られてしまう。要介護3以上でないと、特別養護老人ホームにも入れなくなった。この20年間、私たちが負担する保険料や利用料は増える一方で、使えるサービスは絞られる方向に進んでいるように感じます。

 「認定が軽ければ介護は楽」という見方は間違っています。介護は育児と違って、入学や卒業のような区切りがない。介護する側、される側は大人同士で、互いに疲弊する。社会保障費が膨らむ中、在宅介護にシフトする政策が進むのは仕方がないし、施設に入るよりも最期までわが家で過ごしたい人は多いでしょう。それならもっと、介護する家族を支える視点を大事にするべきです。

 その対策も社会の意識も不足しています。例えば介護離職の問題。私自身、介護のために正社員の職を手放さざるを得なかったし、復職もできなかった。介護しながら仕事を続けられる環境づくりが必要です。

 介護者が多様化した実態にも目を向けてほしい。介護保険ができて「お嫁さん」に負担が集中することは少なくなりました。でも、家族介護が前提なのは変わっていません。男性の介護者が増え、老老介護は当たり前。声を上げにくい人も多く、支援につながらずに高齢者の虐待や殺人に至った事例も少なくありません。一人親世帯の増加などで、10代の「ヤングケアラー」も増えています。

 厚生労働省が2018年にようやく家族介護者支援マニュアルを作り、条例で人材育成など支援の仕組みをつくる自治体も出てきました。この動きが広がってほしい。私たちは介護者がやり場のない思いを吐き出せるよう、安佐北区に常設のケアラーズカフェを開いています。こういった居場所が学区ごとにあるのが理想です。

 ▽現場の魅力高め人材確保 全国老人福祉施設協議会 平石朗会長(65)=尾道市

 介護の現場が抱える一番の問題は人材不足です。全国では、介護施設のベッドは空いているのに、職員を確保できずに入居を断ったり、人手の減った施設に職員を回すためにヘルパーステーションを閉めたりすることが起きています。

 職員を確保できない最も大きな理由は、働く世代の人口の減少です。介護保険がスタートしたときは、急激な人口減少社会が来るという想定が欠けていました。低賃金で重労働という仕事のイメージも拭い去れていません。

 でも実際は、大変さもありますが、人生終盤の生活を支える素晴らしい仕事です。経験を積めば給料も上がるようになってきました。ただ、これから人手がもっと足りなくなることを考えると、さらに賃金を上げる必要があります。

 介護現場の魅力を高める革新も求められています。私が理事長を務める尾道市の法人では、トヨタの元社員の指導で業務改善を進めました。介護に生産性はそぐわないと思うかもしれませんが、合理化が進むと、時間や気持ちの余裕が生まれます。職員の離職を防ぐことにつながり、利用者の満足度も高まります。

 介護職員がくたびれるのは夜間です。情報技術を活用した利用者の見守りがあれば安心して働けます。専門性を生かした仕事に専念するため、地域の高齢者らに食器洗いやシーツ交換などの仕事で活躍してもらうのも一つの方策です。外国人材の活用も進めるべきですが、日本人と同じように能力に応じて給料を支払うのが正しい姿でしょう。

 これからも高齢者は増え、介護にかかる費用はさらに膨らんでいくでしょう。放っておけば介護保険制度は破綻し、低所得や身寄りのない人の安全網でなくなってしまう。それは避けるべきです。

 介護ニーズの的確な把握が欠かせません。安易に「箱物」を増やすと、間違いなく将来の重荷になります。持続可能にするためには、現在の利用料の1割負担を見直し、経済力のある人には負担していただくという考えが必要ではないかと思います。

 ▽サービスと負担、議論必要 県立広島大 地域医療経営プロジェクト研究センター 西田在賢センター長(66)

 介護保険にかかる費用は制度開始から20年で3倍に膨らみました。これで終わりではありません。高齢者の数がピークになる2040年度にはさらに、今の2倍以上になる見通しです。平均寿命が延びて高齢者の数が増え続けているためです。ただ高齢者を支えていくためには、介護の支出が増えるのは避けられません。

 一方で、国の借金は昨年末の時点で1110兆円に達し、介護保険制度が始まった00年の2倍になりました。介護や医療にかかる社会保障費が国の借金を押し上げています。このまま「将来へのツケ」が際限なく増え続けていいわけがありません。サービスと負担について議論を進める必要があります。

 では、どうすればいいでしょうか。医療と介護を一体として考える必要があります。医療費の無駄を削減し、介護にお金を回すという発想が欠かせません。

 日本の病床数は今も英国の5倍、米国の3倍もあります。医療をほとんど必要としない人が、コストが掛かる病院に入院しているケースがまだ多いのです。その費用を削減し、自宅や介護施設で訪問医療を利用しながら過ごす方に、もっとお金を振り向けることが必要でしょう。

 医療と介護はもともと連続したものです。関連した保障として社会が理解するべきです。国も「医療と介護を切れ目なく」という政策を打ち出しています。地域ごとに異なる医療と介護の資源をどうやりくりし、高齢者を含む地域住民の生活をどう支えていくかを考えなければいけません。

 また、介護保険制度を維持していくためには、市民の発想の転換も重要です。

 サービスは費用がかかるので、あればあるほどいいというわけではありません。住み慣れた地域の中で暮らし続けるためにどんな医療や介護の保障が必要かを考えてほしい。

 そのために、誰がどれだけ負担をすればいいのかも意識してほしい。現在は40歳以上が介護保険料を払っていますが、医療を支える健康保険と合わせて20歳以上に広げるべきでしょう。

 ■財政厳しく見直し重ね 予防重視への転換/右肩上がりの保険料

 家族頼みから、社会全体で支える介護へ―。そんな理念で介護保険が誕生してから20年が経った。高齢者が増えて介護保険財政が厳しくなるにつれ、サービスの縮小や、保険料の引き上げを繰り返し、紆余曲折の道のりを進んできた。

 最初に制度を見直した2005年度には、健康寿命を延ばし、介護サービスに頼らなくていい期間を長くしようと「介護予防の重視」に舵を切った。食費・居住費は保険給付の対象外となった。07年度には、訪問介護大手のコムスンによる介護報酬の不正請求事件が発覚し、事業者の在り方が問われた。

 15年度は特別養護老人ホームの入居は原則、要介護3以上に狭まった。さらに、要支援1、2の人向けの訪問介護とデイサービスを市町村の事業とし、地域住民の協力を求めるようになった。

 介護の総費用が増える中で、保険料は右肩上がりを続けている。65歳以上の保険料の全国平均は月2911円から5869円と倍増。40年度には9200円に達するという推計もある。15年度には、利用者の自己負担の公平化も打ち出された。一律1割だった利用料は一定以上の所得のある人は2割に。18年度からは、特に所得の高い層は3割に上がった。

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  • 平石朗さん
  • 西田在賢さん
  • グラフィックは中国5県、厚生労働省、内閣府の資料から
  • グラフィックは中国5県、厚生労働省、内閣府の資料から

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