くらし
【この働き方大丈夫?】売り手市場のはずなのに 新型コロナ 手探りの就活
新型コロナウイルスの感染拡大で、大学生の就職活動にも影響が出ている。感染リスクを懸念して、説明会を中止、延期したり、ウェブ面接に切り替えたりする企業が増え、広島県内の学生にも戸惑いが広がる。手探りの就活を強いられる学生たちの声を聞いた。
▽説明会延期いつまで…/ウェブは雰囲気つかめず
「採用説明選考会を延期します」。広島市南区の女子学生(21)の元に東京の企業からメールが届いたのは、開催予定日の2日前。夜行バスに乗って都内のホテルにチェックインした直後だ。もう1社からは説明会前日に中止の連絡を受けた。小池百合子都知事の外出自粛要請を受けての措置だったが、「直前すぎて地方の就活生への配慮がない。交通費もホテル代も無駄になりました」と憤る。
女子学生が志望するのはテレビ制作会社。社員に直接質問し、社風を体感できる今回の説明会を重視していた。「自己アピールできる機会だった。いつまで延期か分からず今後の予定が立ちません」。再度上京するための費用も負担だ。
例年3月に行われる大学や企業主催の合同説明会は軒並み中止になった。開催した会場でも参加企業が大幅に減り、採用意欲の落ち込みを映し出す。女子学生は「売り手市場という感覚は完全になくなりました。先輩の体験談は全く参考にならない」と話す。「インターンシップ経験者を優先的に採用する企業が増える」とのうわさも友人間で飛び交う。選考で不公平が生じないか、不安は増すばかりだ。
来春卒業する中国地方の大学生や大学院生を対象にした就職情報会社マイナビ(東京)の調査では、ウイルスの感染拡大が就活に影響していると考える人が8割に上った。
東広島市の男子学生(22)は商社など約20社の説明会に行く予定だったが、大半がウェブ配信に変更された。通常なら人事担当者と対面でやりとりできるが、ウェブだと雰囲気をつかみにくい。「限られた情報から納得できる就職先が選べるか心配です」。人気企業は数千人規模の学生が視聴する。質問はチャットで受け付けるが、書き込みが殺到し、担当者の目に留まるかどうか分からない。
マスク着用での面接も受けたが、目だけでは表情が読み取れず声もこもる。「相手に熱意が伝わっているか手応えがない。マスク越しで印象に残るんですかね」と首をかしげる。
ウェブ面接を受けた同級生もいるが、通信状態が不安定で、声が遅れて聞こえたり映像が途切れたりするトラブルがあったという。「去年の就活生がうらやましい。1年違うだけで貧乏クジです」と肩を落とす。
かつての就職氷河期の再来を危惧する学生がいる一方、前向きに捉える声もある。流通業界を目指す廿日市市の女子学生(21)はウェブ説明会の広がりについて「交通費がかからないので、行くのをためらっていた企業を知るチャンスになる」と話す。緊急時の対応から企業の本質も見極められると期待する。「学生への思いやりがあるかどうか。志望先を決める判断材料にします」(ラン暁雨)
▽主体的に情報を集めて 広島のコンサルタント藤原輝さん
前例のない就活に学生はどう向き合えばいいのだろう。比治山大・同大短期大学部でキャリア指導に携わるコンサルタントの藤原輝さん(48)=広島市=に聞いた。
■心構え
説明会の中止が相次ぎ、学生と企業が直接顔を合わせる機会が減っています。学生が視野を広げて主体的に情報を集める力が必要になります。不安でしょうが冷静さを失わず、説明会中止や選考延期で時間ができたことをチャンスと捉えましょう。
今のうちに企業研究や面接練習などを充実させてください。社員に会ってリアルな声が拾えない分、四季報などでこつこつと企業研究を進めましょう。大学の就職相談窓口も積極的に利用してください。アドバイスをもらえるだけでなく、不安な気持ちも受け止めてくれますよ。
現時点では採用数を変えないという企業も多く、これまで通り「学生に会いたい」というニーズは根強い。安全面に配慮して集団のセミナーや面接を少人数で実施したり、個別面接を重視する動きも見られます。そういった場に積極的に参加すれば相手の印象に残りやすくなるはずです。
■ウェブ面接
オンライン通話サービスを使って行う「ウェブ面接」は不慣れな人が多いので、事前に友人と練習してみましょう。部屋の明るさや自分の顔がどう映っているか互いに確認できます。画面が小さいスマートフォンは前のめり姿勢になりやすいのでパソコンを使うといい。画面の端に自己PRの文章を出しておけば、見ながら話せる利点があります。ヘッドセットを使うと雑音を遮断できます。
注意したいのが会話のリズム。対面と違って場の雰囲気を共有するのが難しいので、話の終わりが分からないことがあります。言葉の区切りを明確にし、話し終わったら「以上です」と付け加えると親切です。
■マスク着用の面接
顔が見えにくい分、目の印象が重要。顔の表情筋はつながっているので、口角を上げると目元もにこやかに見えます。しっかりまぶたを開き、目力を意識してください。声のトーンも明るくして、いつもよりはきはき話すことを心掛けるといいでしょう。
▽解雇や収入減 あなたの経験談寄せて
新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、仕事を失った人や収入が減った人の声を募っています。「会社を解雇された」「派遣切りに遭った」「パートのシフトが減らされて生活できない」などの体験談やご意見をお寄せください。匿名希望の場合も連絡先を教えてください。
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