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「あなたは認知症ではない」 「若年性」診断から10年後の告知

2020/4/5 20:17
「認知症と向き合ってきた経験を伝えていく」と語る竹内さん(左)。そばで竹中理事長が活動を支える(広島市中区のもちもちの木)

「認知症と向き合ってきた経験を伝えていく」と語る竹内さん(左)。そばで竹中理事長が活動を支える(広島市中区のもちもちの木)

 ▽経験伝える活動に意欲 広島のたぬき倶楽部代表・竹内裕さん

 認知症の当事者たちを支援する「たぬき倶楽部(くらぶ)」の代表で、自らも59歳で若年性認知症と診断された竹内裕さん(70)=広島市西区=は昨年春、主治医から衝撃の告知を受けた。「あなたは認知症ではない」―。診断から実に10年がたっていた。「心が折れそうだったが、ここでくじけるわけにはいかん」。人生を揺さぶる若年性認知症への理解を求め、再び活動に力を入れている。

 65歳未満で発症する若年性認知症。竹内さんは2009年、広島市内の病院で「前頭側頭葉型認知症」と診断された。当時59歳。市内の会社の専務として営業の一線にいた。同僚に指示もしていないのに「なんでやってないんだ」と怒鳴る。取引で大きなミスもした。感情の抑制などが利かなくなる前頭側頭葉型の症状に当てはまっていた。

 それから10年。「認知症ではない」という告知を市西部認知症疾患医療センター(西区)で受けた。12年からセンターで経過を見ているが、記憶力の低下など症状が進行していないためだった。

 竹内さんは自身の認知症を受け入れ、60歳の時に市内のシンポジウムで苦悩や体験を初めて打ち明けた。これをきっかけに全国各地を回って講演し、17年に「たぬき倶楽部」を結成。辞職、離婚を経て、当事者として全力で活動していただけにひどく混乱した。「最初の診断は何だったのか。これからどうすれば…。にわかに信じられなかった」

 厚生労働省の09年の調査では、全国の若年性認知症の当事者は約3万8千人。発症年齢の平均は51・3歳で、多くは働き盛りの世代だ。仕事の継続、家族との暮らし…。先を見通せず、認知症であることを受け入れられない人は少なくない。

 竹内さんも診断直後はそうだった。自分が自分でなくなるかもしれない恐怖がつきまとう。「あり地獄にはまった」ように落ち込み、1年ほど自宅に引きこもった。転機は中高時代の同窓会。同級生に引っ張り出されて参加し、部活などの思い出を語り合ううちに吹っ切れていったという。

 めげそうになるたび、立ち直れたのは「温かく寄り添ってくれる親友たちがいたから」と話す。デイサービスなどを手掛けるNPO法人もちもちの木の竹中庸子理事長(60)=中区=もその一人。市の認知症アドバイザーでもあり、10年にわたって支えてくれた「理解者」だ。

 竹内さんは昨年末、「認知症ではない」と告知されたことをカミングアウトする手紙を書いた。竹中理事長たちの協力も得て、全国の知人や支援団体など約450カ所に送付。共感の言葉とともに、「ぜひ講演で話してほしい」という依頼が返ってきている。

 若年性認知症の場合、発症後の人生は長い。「本人に何ができるか。諦めずに家族や職場も一緒になって見つけていくことが前を向き、自立して暮らす一歩になる」。それは竹内さんが身をもって経験してきたことだ。「俺は認知症予備軍に戻っただけ。いつまた発症するか分からんが、心構えはできとるよ」(林淳一郎)

 ▽覆るケースわずかにある/重要なのは経過観察 広島市西部認知症疾患医療センター長・岩崎庸子医師に聞く

 認知症の診断が覆るケースはどれほどあるのか。竹内さんの主治医で広島市西部認知症疾患医療センターの岩崎庸子センター長は「全国統計はないが、自分の経験でもわずかながらある」と説明する。

 認知症の診断は、本人や家族への面談、認知機能の検査、脳の画像診断などを踏まえる。竹内さんは2009年、広島市内の病院を受診し、画像診断で脳内の血流の低下が認められたほか、感情の抑制が利かなくなるなどの行動もみられたことから「前頭側頭葉型認知症」と診断された。

 しかし、岩崎センター長が竹内さんを診察した3年後には、前頭側頭葉型の症状はみられず、最初に診断した病院に再検査を依頼。アルツハイマー型の初期にみられる脳の血流低下が確認されたため、アルツハイマー型に進む可能性を疑って、投薬と経過観察を続けたという。

 だが、その後何年たっても竹内さんにアルツハイマー型特有の記憶力の低下はみられなかった。「重要なのは経過観察」と岩崎センター長。若年性認知症は数年診て症状が進まないことはまずないため、認知症の診断を覆す告知に至った。

 そもそも認知症かどうかの診断は容易ではない。気持ちが落ち込んで、うつ状態になるなど区別しにくいケースもある。だからこそ経過を診て、精度の高い画像診断なども実施して見極める。ただ、画像診断に頼り過ぎて診断がぶれることもある。竹内さんの場合も「当初の感情的な行動は前頭側頭葉型でもみられる。うつ状態の後のそう状態だった可能性も考えられる」と指摘する。

 「とはいえ、認知症と診断されて思考停止になったり、逃げたりするのはよくない」と岩崎センター長は強調する。「竹内さんのように受け止め、自身の症状にしっかり向き合っていくことが大切だと知ってほしい」と呼び掛けている。

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  • 「若年性認知症になったとしても、それですべてが終わるわけではない」と話す岩崎センター長(西区の市西部認知症疾患医療センター)

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