くらし
【専門医が診る】FILE85 ふるえ
緊張和らげると症状軽減
年齢を重ねると経験することも多い、手や頭の「ふるえ」。パーキンソン病などの病気でおきるものもあるが、原因の分からないものもあり、さまざまなタイプがある。広島市立リハビリテーション病院(安佐南区)の加世田ゆみ子副院長にふるえの見分け方や治療について聞いた。
―ふるえにどんなタイプがあるのですか。
病気のふるえはおきるタイミングによって大きく三つに分類できます。一つ目は、特に動作をしていないときの安静時のふるえです。パーキンソン病の患者によくみられます。二つ目はコップを持つなど一定の姿勢を取ったときに起きるもので「本態性振戦(しんせん)」が代表的です。三つ目は、針に糸を通そうとする動作などをおこすと現れるタイプで、小脳の障害などが原因です。
緊張したときや寒いときに体がふるえるのは病気ではなく、生理現象で誰でもおきます。
―どう見分けますか。
医師は診断する時、(1)どんなときにふるえるか(2)ふるえ以外の症状はないかという点を特に重視します。ふるえには、大きな病気が隠れている恐れがあるので早めに見極め、必要な治療を始めることが大切です。
パーキンソン病の場合は前かがみで歩いたり、声が小さくなったりする症状も現れます。暗算などで緊張すると、ふるえが大きくなる傾向があります。脊髄小脳変性症などの小脳の障害は、人さし指で他人の人さし指に触った後に自分の鼻を触ってもらう「指鼻試験」で、ふるえがおきるかどうかで確かめます。歩きにくくなったり、話しにくくなったりする症状も現れます。
他にも、甲状腺機能亢進(こうしん)症や薬の副作用によるふるえもあります。「たかがふるえ」と思わずに、症状が出たなら、まず近くの脳神経内科で診てもらいましょう。
―ふるえの大半は本態性振戦が占めると聞きます。
40歳以上で4%以上、60歳以上で5〜14%以上の人が経験すると言われています。原因は分かっておらず、ふるえ以外の症状がないのが特徴です。最も症状が出やすいのが手です。持っているコップから水がこぼれたり、茶わんを落としたりして気付くことがよくあります。他にも声や頭がふるえることがあります。
診断時に、渦巻き状の線を書くテストをすることもあります。本態性振戦だと手がふるえてうまく線が書けないのです。進行しても亡くなる病気ではなく、寝たきりになることもありません。ただ、ふるえを気にして人前に出られなくなるなど気持ちや生活の質に影響が出ることがあります。
―本態性振戦はどう治療をしますか。
日常生活でどれくらい困っているかを聞き取って治療を決めます。それほど困っていないなら様子を見ます。緊張時にふるえがおきやすいので「手のひらに『人』と書いてのみ込む」など自分のリラックス法を見つけるのは有効です。酒を飲む理由にしてもらうと困りますが、アルコールでふるえを抑制できることも知られています。反対にカフェインの過剰摂取は悪化の要因です。
治療は薬物療法が基本です。不安を和らげる「精神安定剤」や交感神経の働きを抑える「ベータ遮断薬」などを用います。「スピーチの時はふるえを抑えたい」という場合は、会議のある日だけ精神安定剤を飲むという方法もあります。症状の出方や困り具合によって、薬の種類や量が変わります。
―薬が効かないときはどうしますか。
まず、自然に治ることはなく、ふるえをゼロにするのは難しいことを知っておいてください。効果が不十分な場合にボツリヌス毒素を患部に注射する治療を検討することもあります。脳内の「視床」と呼ばれる場所を焼き切る「破壊術」や、同じ場所を電気で刺激をする「脳深部刺激」などの手術をすることもあります。
かせだ・ゆみこ 長崎市出身。82年、九州大医学部卒。脳神経内科医として九州大病院や広島大病院、梶川病院などの勤務を経て、08年から現職。米国インディアナ大留学。広島大医学部の臨床教授も務める。日本神経学会と日本リハビリテーション医学会の専門医・評議員。
ここがポイント
ふるえにはパーキンソン病や小脳の障害などの病気が隠れている場合があります。症状を軽く見ず、早めに受診しましょう。文字を書くときなどにふるえる本態性振戦は、日常生活での困り具合に応じて薬の種類や量を変えます。
質問や相談募集
ふるえについて加世田副院長への質問や相談を募集します。一部について「読者からの質問編」で回答します。〒730―8677中国新聞くらし「専門医が診る」係まで。ファクス082(236)2321、メールkurashi@chugoku―np.co.jpでも受け付けます。20日必着。掲載は匿名ですが、住所、名前、性別、職業、電話番号を明記してください。
「腰の椎間板ヘルニア」(3月17日掲載)について、読者から20通以上の相談が寄せられた。下半身の痛みやしびれで困っている人が多く、同じような症状の出る「脊柱管狭窄(きょうさく)症」と混同していると思...
薬や注射で手術回避も 神経を圧迫し、下半身のしびれや痛みなどにつながる腰の椎間板ヘルニア。これまで手術をしていたケースでも、注射で治す方法が登場している。脳神経センター大田記念病院脊椎脊髄外科(福山市...
水ぶくれあれば受診を ストーブや熱湯を使う機会が増える冬場はやけどが多くなる。適切な処置を早く受けることが、症状を悪化させないポイントだ。広島大病院皮膚科(広島市南区)の菅崇暢診療講師(42)に、治療...
高齢者に多い誤嚥(ごえん)性肺炎(11月25日掲載)について、読者から寄せられた相談や質問に、吉島病院(広島市中区)の山岡直樹院長(62)に答えてもらった。(衣川圭)
適度な運動 予防に効果 新型コロナウイルス感染症の症状として注目される肺炎だが、患者や死亡者の数が多いのは高齢者の誤嚥(ごえん)性肺炎だ。口の中の細菌が肺に入って起こる。吉島病院(広島市中区)の山岡直...