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人工呼吸器で生活 災害時の備えは

2020/6/30 19:31
人工呼吸器を付けて生活を送る向川さん(左)。理学療法士の馬上さん(右)たちと災害時の行動計画を練った(広島市佐伯区)

人工呼吸器を付けて生活を送る向川さん(左)。理学療法士の馬上さん(右)たちと災害時の行動計画を練った(広島市佐伯区)

 人工呼吸器を着けて家で暮らす人たちは、災害で停電が長引くと命にかかわる。だが、備えは遅れてきた。ここ数年の災害では、停電で呼吸器停止の危機が迫った例もある。非常用電源や緊急避難できる病院・施設の確保を急ぐべきだという声が上がっている。西日本豪雨から2年、あらためて災害弱者の課題に目を向けたい。

 ■当事者に危機感 行動計画や発電機準備

 広島市佐伯区の向川伸美さん(66)は5年前、事故で頸髄(けいずい)を傷め、体を自由に動かせない。人工呼吸器は24時間欠かせず「災害時の電源確保が心配でした」と打ち明ける。事故に遭う前、台風による電線の塩害で自宅が長時間停電したこともあり、心配を募らせる。

 車いすや機器は重く、避難所の学校などへの移動は簡単ではない。災害発生時に誰と連絡を取るか、どこの病院・施設に避難するか―など、人工呼吸器の装着者が安全に災害を乗り切るために、決めておくべきことは結構ある。

 向川さんはこの春、訪問リハビリテーションを担当する理学療法士たちと相談しながら「わたしの避難シート」に、災害時の決まり事をまとめた。シートは、国が各自治体に作成を促している、災害時に支援が必要な人ごとの個別計画。広島市がことし、人工呼吸器の装着者向けに用意した。

 向川さんの場合は、住まいが災害の警戒区域外のため、自宅避難を基本にした。これから市の補助を使って発電機を購入。停電が6時間を超すと、三つある人工呼吸器の外部バッテリーを順次、充電する計画を立てた。停電が長引きそうなら、緊急時の受け入れを頼んでいる病院に搬送してもらうことにした。

 広島市安佐南区の小野美由紀さん(45)も、脳性まひの次男暖仁(はると)さん(13)のために発電機の購入を決めた。暖仁さんに欠かせないのは人工呼吸器だけでない。たんの吸引器や体温調節のためのエアコンマットなど、電源の必要な機器は計6種類に上る。

 2014年の広島土砂災害や18年の西日本豪雨の時は、小野さんが住む団地の一部も土砂が襲った。「この時は幸い停電はなかったが、災害で電気が来なくなることはもう人ごとではなくなった。発電機があると安心感が違う」と強調する。

 ■公的サポート 個別対応始まったばかり

 家で人工呼吸器を使う患者はどれくらいいるのか。厚生労働省の研究班の調査では18年3月末時点で、気管に穴を開けるタイプの人工呼吸器を使う在宅患者は少なくとも全国で7395人、広島県で175人だった。医療の進歩で命が助かる人が増え、在宅での医療・介護も充実し、十数年で約3倍に増えた。一方、広島市の調査では、非常用の電源を持っている在宅患者は1割に満たなかった。

 在宅患者の課題がクローズアップされたのは、295万世帯が停電した18年9月の北海道地震だ。患者や家族が電源確保に奔走。予備バッテリーも尽きそうになり、救急搬送で入院する例も相次いだ。広島県でも西日本豪雨のピーク時には4万7500戸が停電した。

 難病対策センター(広島市南区)が行ったアンケートでも、備えの弱さが浮かび上がる。県内の人工呼吸器装着者54人が回答し、避難方法を具体的に考えているのは3割にとどまった。個別計画は11%が作成しておらず、78%は「作成したかよく分からない」と答えた。

 広島市健康推進課も、個々の支援体制づくりを課題と認める。ことし2月、保健師を患者宅に派遣し、避難場所や安否確認の方法、電源確保について確認し始めた。個別計画を策定すれば、発電機や蓄電池の購入費を12万円を上限に9割補助する事業も本年度スタートした。

 コールメディカルクリニック広島(西区)の理学療法士で、人工呼吸器を使う患者宅に通ってきた馬上泰次郎さんは「災害が来たら諦めるという人もいた。電源確保が進み、災害時の対応を関係者で共有できるのはありがたい」と話す。

 難病患者の災害対策に詳しい柳井医療センター(柳井市)の宮地隆史副院長は「人工呼吸器の患者は災害時に特に配慮が必要にもかかわらず、機械の扱いや移動の支援が難しいために対応が後回しになってきた面がある」と説明する。また、安否確認を訪問看護師や呼吸器会社の担当者の善意に頼っている現状を懸念する。「公的なサポートの拡充が必要だ」と訴えている。(衣川圭)

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  • 向川さんが使っている人工呼吸器
  • 人工呼吸器など、電源の必要な多くの医療機器を使っている暖仁さん(広島市安佐南区)

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