くらし

【認知症からの贈り物 信友直子】<13>思わず笑った衝撃映像

2020/6/30 19:31
洗濯物の上に寝転ぶ母。この後、父がひょいとまたいでトイレに向かった=(C)2018「ぼけますから、よろしくお願いします。」製作・配給委員会

洗濯物の上に寝転ぶ母。この後、父がひょいとまたいでトイレに向かった=(C)2018「ぼけますから、よろしくお願いします。」製作・配給委員会

 深刻な事態なのに、カメラを構えていたら思わず笑って楽になった出来事をひとつご紹介しましょう。

 帰省したら、洗濯機の中は汚れ物でいっぱいになっていました。なのに母は「お母さんがするけん、放っとって」と洗濯させてくれません。

 「結局私は休ましてもらえんのじゃ」。昔のうっぷんがこんな場面で出るのか、母は不機嫌そうに汚れ物を廊下にばらまいてゆきます。そのうちに突然「ああ、たいぎい」。ゴロンと寝転がってしまいました。

 え、お母さん、そこに寝るん?

 大量の洗濯物の上に横たわる母―というのは、娘にとってはなかなか衝撃的な光景です。昼寝すら怠惰だと嫌がっていた人なのに…。もしこの時、母の間近にいたなら、恐怖や心配や情けなさ、いろんなネガティブな感情が渦巻いて「お母さん、何でこんなになってしもうたん…」と泣いてしまったかもしれません。

 でも幸い、私にはビデオカメラという相棒がいました。離れたところから撮っていると「うわあ衝撃映像だ!」と、少しおもしろがる心の余裕すら生まれたから不思議です。

 そこに父がやってきて、緊張しました。父は自堕落に寝ている母を叱る? それとも母にカメラを向けている私を叱る?

 しかし、父は「しょんべん、しょんべん」と言いながら、母の体をひょいとまたいで、そのままトイレに行ったのです。

 私は思わず吹き出していました。これが今のウチの日常なんだ。そう思うとなんだか気が抜けて、ストンと楽になったのです。母が寝転ぶのも、父が寝ている母をまたぐのも、年とって少しネジがゆるんできた両親には、気にもならない普通のことなんだ…。

 それでええんよ。それが生きて、年をとっていくいうことよ。おっ母(かあ)の認知症もその一環じゃけん。父の背中から、そんな励ましの声が聞こえた気がしました。(映画監督・映像ディレクター=呉市出身)

【認知症からの贈り物 信友直子】
<1>両親の姿、ありのままに
<2>母の異変、気付いた電話
<3>母をいたわる父の度量
<4>問診テスト、正解した母
<5>祖母に対する後悔の念
<6>書への情熱くじく異変
<7>父の返しに笑顔戻る母
<8>父と娘 不思議な連帯感
<9>父の強さ優しさを知る
<10>思う存分 父に甘える母
<11>背中かいて「お疲れさん」
<12>「ヒキ」の視点で笑い発見
<母文子さん死去に寄せて>老いるとは・死にゆくとは…教えてくれた
<13>思わず笑った衝撃映像
<14>父の率直さ、母を安心に
<15>にじむ親心が切なくて
<16>失態恐れ人目を避ける
<17>心の内さらけ出した母
<18>空気和ませた父の返事
<19>教え請う父に心ほぐす
<20>家計簿に残る母の矜持

  • 前の記事へ
  • 次の記事へ

 あなたにおすすめの記事

認知症からの贈り物 信友直子の最新記事
一覧