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【ためらわず逃げて 高齢者の防災】<下>今の避難所を前もって知る

2020/7/5
「次の見学会はいつ開こうかね」と話す楠本会長(右)たち(呉市の呉やけやま病院)

「次の見学会はいつ開こうかね」と話す楠本会長(右)たち(呉市の呉やけやま病院)

 災害が起こる前に高齢者に逃げてもらうには、避難所の環境も大きなポイントになる。コロナ禍でも、ためらわずに利用してもらうには、どんな工夫が必要なのだろう。

 ▽見学会で納得 家より安心

 小学校の教室2部屋以上はある広間に、畳スペースや横になれる長いす、ソファが並ぶ。「ああ、ここなら家より安心じゃね」。昨年10月、呉市昭和地区の神山自治会が開いた避難所の見学会。参加した高齢者たちから笑みがこぼれた。

 「ここ」とは、呉やけやま病院の敷地内にある精神科デイケアなどで使う施設だ。施設にはバリアフリーのトイレと風呂もある。

 自主防災リーダーの森原トシエさん(75)は「すごく環境がいいんですが、高齢者は知らない所には行かない。前もって見てもらうのが大切」と話す。「ことしは消毒液の設置など、避難所のコロナ対策も見学してもらうと効果的かもしれません」

 「避難所」といえば和式トイレや硬い床、段差や階段のある施設といったイメージがある。地区の最寄りの指定避難所は1キロほど行った中学校で上り坂もあり、高齢者が歩くのは一苦労だ。実際、西日本豪雨の時に避難勧告が出たが、中学校に逃げた自治会の住民は「ゼロ」だった。

 豪雨の後、高齢者や障害者から「あそこまでよう歩かん」「行ってけがをしそう」などの声が上がった。神山自治会の楠本進会長(74)は「避難所は『居心地が悪い』という認識も逃げ渋りにつながる」と指摘する。

 そこで住民が話し合い、独自の「行きたくなる」避難所づくりを始めた。神山自治会と隣の自治会は、呉やけやま病院を災害時に高齢者や障害者の一時避難所として利用させてもらえるよう申し合わせた。

 ただ、「周知」はまだ道半ばだ。楠本会長は「見てもらう機会を少しずつ増やしたい。新たな避難所の開拓も進めますよ」と力を込める。

 ▽なじみの場所だから大丈夫

 雨音が響いて、家の前の川の水量が気になり始めると、広島市安芸区の80代の無職女性は畑賀福祉センターを思い浮かべる。「よく知っている場所だから、和室やホール、どの部屋に避難することになっても安心」。センターにはこれまで3、4回避難した。

 エレベーターやエアコンなど高齢者に優しい設備が整っている。40年前から通い続けているなじみの場所でもある。絵手紙教室や編み物、書道を習ってきた。

 同じく畑賀地区の土肥時保さん(95)も、なじみの福祉センターが避難場所になっていることにちょっと安心している。介護予防の体操をしたり、地域住民との話し合いに使ってきたからだ。「ここの設備はいいからね」と、足の悪い妻の美智子さん(89)と逃げても大丈夫と感じている。

 畑賀地区社会福祉協議会や自主防災会、行政などが話し合い、昨年5月、福祉センターを高齢者優先の避難所に選んだ。普段は行かない小学校の体育館よりも、いつも利用しているセンターの方が災害時にも来てもらいやすいと考えたからだ。実際、西日本豪雨の時、高齢者や障害者の多くが体育館に避難していなかった。

 新型コロナウイルスの感染不安から避難を避ける高齢者が出ないように、福祉センターでは今、予防対策に力を入れる。避難所にしたときのホールや和室などの定員は通常の半分にした。体調が悪い人が利用できる隔離用の部屋も用意し、マスクも準備する。

 同社会福祉協議会の中島幸子会長(81)は「早く逃げてもらうには、いかに安心してもらえるかが鍵になる。『あそこなら』と行動につながれば」と願う。(標葉知美、治徳貴子) 

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  • 高齢者優先の避難所になる畑賀福祉センター。調理室で「避難の時には、食器なんかも使えるね」と話す中島会長(左)=広島市安芸区

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