くらし
高齢者施設、どう避難 豪雨や土砂災害から利用者守ろう
豪雨や土砂災害で高齢者施設が被災し、利用者が犠牲になるケースをどうすれば減らせるだろう。今月は梅雨前線による記録的な豪雨により、熊本県の特別養護老人ホームで利用者14人が逃げ遅れて命を奪われた。課題や避難の手だてを探った。
▽外への移動にリスク つらい体育館、感染予防も課題
施設内で高い場所に逃げる「垂直避難」に対し、施設とは別の場所に横にスライドして逃げることを「水平避難」という。しかし、この水平避難が難しいという声が現場には強い。
「施設を出て逃げるのは大変でした」。岡山市南区の地域密着型特別養護老人ホーム「藤田荘」の植木賢治施設長は、2年前の西日本豪雨の直後を振り返る。利用者30人を近くの小学校の体育館に搬送したが、館内はひどい暑さで体の不調を訴える人も出た。車で同じ法人の施設に移るまで、2時間半かかった。
高齢の利用者の避難先として環境の整った場所は限られる。そんな中で、国は施設などに「避難確保計画」を作るよう旗を振り、広島県内の社会福祉施設では8割の施設が計画を作っている。しかし避難先は、体育館など過酷な場所も含まれる。関係者からは「実行できるか疑問」「外に逃げる計画は現実的ではない」などの声が上がる。
施設外への水平避難の場合、移動距離はどうしても長くなる。広島市老人福祉施設連盟の藤井紀子会長は「ベッドに寝た状態や車いすのお年寄りの長距離の移動はリスクを伴います」と話す。体の機能が衰えた高齢者を慌てて動かすと、手足の皮がむけたり骨折したりすることもある。認知症の影響で、危険な所に行ってしまう人もいる。
しかも夜間、早朝に避難を迫られたときは、移動をサポートするスタッフの人数も限られる。「さらに今年は新型コロナウイルスの感染を避ける必要がある。人が集まる学校や公民館への避難は考えにくい」と打ち明ける。
▽施設内で工夫凝らす 被害少ない上階や、斜面の反対側へ
では、どんな避難ならできるだろう。広島市佐伯区の軽費老人ホーム「五日市グリーンヒルホーム」は5年前から、利用者が施設の上の階に「垂直避難」する訓練を始めた。
施設の近くには小高い山がある。高橋晃司施設長は「災害の可能性はゼロではない。早く、少しでも高い場所に逃げることを習慣付けています」と説明する。
「キンコンキンコーン」。チャイムと避難を呼び掛ける放送が流れると、6階建ての3〜5階に住む人たちが各階の階段に集まる。車いすの人は職員や友人の助けを借りながら、住む階の一つ上の階まで登る。初めは20分ほどかかったが、年2、3回訓練を繰り返すうち、10分以内に登れるようになった。
災害の起こりやすい夜間は、定員50人の利用者に対し、職員は1人しかいない。一方、利用者は慣れた場所、手順なら何とか自分で動ける。高橋施設長は「利用者ができる範囲で自分で動いてもらうと、スムーズな避難につながる。緊急時に複雑な動きはできない。シンプルな訓練を重ねたい」と強調する。
呉市の大崎下島にある特別養護老人ホーム「豊寿園」も、施設内の避難に力を入れている。
施設は2階建てだが、隣に急傾斜の山がある。大雨が降ると、山側の1階の部屋で暮らす利用者4人に、その反対側に移ってもらう。40メートルだが、半身まひや足が動かせない高齢者をベッドから車いすに移して動かすのは容易ではない。職員1人で運ぶと計1時間かかるため、スタッフが多い時間帯に避難を早めることもある。
馬明信也施設長は「事情は施設ごとに違い、それぞれに具体的なアドバイスが必要。行政は専門家の派遣などを検討してほしい」と要望する。
利用者の家族にできることもある。広島県老人福祉施設連盟の池田円会長は「まず施設の災害時の対策を把握しましょう」と呼び掛ける。その上で、不明な点があれば問い合わせるよう勧める。これから施設を選ぶ人は、立地や実効性のあるマニュアルがあるかどうかの確認が大切という。「家族の言葉は施設に届きやすい。防災意識を高める力になります」と話す。(標葉知美、桜井邦彦)
■補強やリフォーム ハード面の対策を
施設のハード面の対策は何が考えられるだろう。広島大大学院先進理工系科学研究科の三浦弘之准教授(43)=防災工学=に聞いた。
ハザードマップ内にある施設は移転が望ましいが費用を考えると難しい。補強やリフォームなら敷居は低い。例えば、建物の山側に1、2メートルのコンクリート壁を作れば土砂の流入を防ぐ助けになります。入居スペースは1階を避け、2階以上に移しましょう。
施設内避難をするなら、電気や水などのライフラインを確保できる自家発電や雨水浄化の設備があるといい。地価が安いなどの理由で山や川の近くにある高齢者施設は少なくない。新築する場合は立地に慎重になるべきです。ただ、補強も新設もお金がかかる。国や自治体の後押しも必要ではないでしょうか。
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