くらし

【この働き方大丈夫?】第4部 パワハラが怖い<1>指導か暴言か、世代間でずれ

2020/7/21
イラスト・大友勇人

イラスト・大友勇人

 働く人の心を傷つけるパワーハラスメント。6月に施行された「パワハラ防止法」は対策を大企業に義務付けました。一方で、どんな行為が該当するのかといった定義はあいまい。若手社員は業務上の指導や注意をすぐに「パワハラ」と受け取る―。ジェネレーションギャップの悩みが、現場には渦巻いているようです。

 ▽駄目出しすると不機嫌に。「傷ついた」と休職2カ月

 ■広島市東区の会社員男性(41) メーカー勤務。若手社員との接し方に悩む。

 昨年、入社3年目の後輩から「パワハラ認定」されました。彼の営業成績が上がらず、上司からサポートするように言われて企画書やプレゼン資料を作る助言をしていました。でもマイペース過ぎるというか、どこか人ごと。言われたことしかしない「指示待ち君」なんです。

 その割にプライドだけは高くて。資料に駄目出しすると「何が悪いんですか」「僕はそう思いません」と不機嫌になる。進学校出身らしく、根拠のない自信が過剰に育ってしまった感じで扱いづらい。

 プライベート優先の姿勢も徹底しています。業務時間外に連絡が来るのがストレスになると社用スマホの携帯を嫌がり、チームで残業が必要なときも定時に帰ろうとします。「だって働き方改革でしょ」が彼の言い分。そう言われると今どきは怒りにくいです。

 会議中もスマホをいじって上の空。我慢できず「やる気ないなら帰れ」と叱ったら本当に帰ったんですよ。次の日から病欠し、1週間後、当てつけのように「うつ病」の診断書を提出してきました。

 人事部の聞き取りには、仕事のプレッシャーとパワハラが原因と答えたそうです。「若手にとっては難しい業務を振られ、一生懸命やったのに人格否定されて傷ついた」とも話したとか。これまで散々フォローしたのに責任転嫁されて、傷ついたのは僕らですよ。

 今の子は会社が「パワハラ」という言葉に敏感なのをよく知っているから余計たちが悪い。2カ月近く休職し、その間に旅行にも行ったらしい。仕事は嫌だけど、プライベートでは元気な「新型うつ」でしょうね。今も職場にいますが、どう接したらいいか怖くて腫れ物扱いです。

 権利意識が強過ぎるのか、何でも「パワハラ」と拡大解釈する若手が増えています。悩ましいのは、指導とパワハラの線引きが難しいこと。僕らは指導のつもりでも彼らの認識とずれていることもある。こっちが萎縮してしまいます。面倒だから関わりたくないのが本音ですが、人材育成のために厳しく言うべきところは言わないと。若手が育たないと結局、僕らも困りますから。

 ▽退職代行使う若手。理不尽なこと言ってないのに…

 ■広島市佐伯区の会社員女性(38) IT関連企業に勤務。新入社員が突然退職。

 昨年末、新人の男性社員が退職代行サービスを使って辞めました。ある日、聞いたこともない会社から電話があり、彼の退職希望を告げられたんです。

 理由は「この組織は自分を成長させてくれない。拘束時間が長いし、同じ作業を何度もやり直せと言われる。パワハラだ」。精神バランスが崩れて不眠症になったとの主張でした。彼にとっては「不快なこと=パワハラ」という認識なんでしょう。

 うちはクライアントからウェブ制作やシステム開発を請け負う会社で、繁忙期は残業が続くこともある。でも高圧的な上司はいないし、職場の雰囲気も悪くない。彼には早く一人前になってほしい、成功体験を感じてほしいと思いながら接していました。

 だから「ここを改善すればもっとよくなるよ」「もう少し考えてみてね」と親身に指導したつもりです。ミスは注意しましたが、理不尽なことを言ったり過剰な負荷を掛けたりした覚えはありません。

 業者に頼んだのは、退職をしつこく引き留める「慰留ハラスメント」をされたからだそうです。絶句しました。入社1年で結論を出すのは早過ぎるよ、という意味だったのに曲解されている。突然コミュニケーションを遮断され、もう打つ手がありません。

 SNSに会社の悪口を書き、注意されている最中の会話も「パワハラの証拠」として録音していたようです。ドラマの影響なのか、最近こういう子が多いらしいですね。全て自分が正義と思っている。若い世代の価値観が私たちと全く違うことに戸惑うばかりです。

 ▽尊厳傷つける言動は厳禁。部下の耐性も低下している

 ■広島市の40代人事担当男性 サービス業。社員の労務管理に長年携わる。

 他社の人事担当者と情報交換すると、上司と部下のジェネレーションギャップに悩む企業が多いですね。若手が成長するためには一定の厳しさは必要。今はそれがパワハラリスクと背中合わせになっています。

 行き過ぎた言動で相手の尊厳を傷つけるパワハラは当然あってはならないこと。わが社も相談窓口や自己診断シートを作って対策に力を入れています。

 一方で、上司から何か言われた際の受け取り方が、人によって全く違うのがこの問題の難しさです。第三者が見ても明らかなパワハラという場合もありますが、多くは指導のつもりで出た一言を部下が不快と感じるケース。上司の側は、パワハラをしたと思っていなくても相手が苦痛に感じることがあると知っておくべきです。

 部下の「耐性」も低下しています。家や学校で怒られた経験がないまま大人になる若者が増えた。失敗を極度に恐れ、自己防衛する傾向にあります。「多少理不尽なことも我慢するのが社会人」という古い価値観の上司とは相いれません。

 組織内の人間関係が希薄になった影響もあります。業務連絡はメールで行い、飲み会も減ってコミュニケーションが取りづらい。信頼関係があれば叱られても「自分に非があった」と素直に反省できますが、逆だと「高圧的に責められた」と感じる。誤解が生じやすい環境です。

 パワハラの訴えがあった際は必ず互いの言い分を聞きます。その上で該当する事実が本当にあったか、それが「適切な指導の範囲内」だったかを客観的に確認することが大切。世代間の関係をどう紡いでいくか、大きな課題です。

 ▽何が該当? パワハラ防止法、線引きあいまい

 6月1日施行の「パワハラ防止法」は、まず大企業に対して防止策の実施を義務付けた。従業員300人以下などの中小企業については2022年4月から義務化される。

 企業に求められる防止策は主に、パワハラを起こさない方針の明確化と社員への周知▽相談窓口を定めて柔軟に対応できる体制の整備―などだ。プライバシーを守り、相談したために解雇などの不利益が生じることも禁じる。

 では、どんな振る舞いがパワハラになるのか。厚生労働省が指針で示すのは、身体的な攻撃▽精神的な攻撃▽人間関係からの切り離し―など6類型。企業ではないものの、山口県田布施町が固定資産税の徴収ミスを内部告発した職員を1人だけの畳部屋に異動させた問題は、防止法の施行直後に発覚し「パワハラ」と非難を浴びた。

 6類型について厚労省はパワハラに「該当する/該当しない」と考えられる例も明示する。しかし、その線引きが「あいまい」との指摘は少なくない。例えば、遅刻など社会的ルールを欠いた言動が見られ、再三注意しても改めない社員を一定程度強く注意するケース。指針は「該当しない」とするが、「一定程度」の度合いは注意する人のさじ加減にかかる。

 ▽する側の人間性/信頼関係の欠如…起こる理由、民間調査

 パワハラが起こる理由は何か。民間のエン・ジャパン(東京)が4月末〜5月末、働く35歳以上の約2千人に聞いたインターネット調査では、70%の人が「パワハラをする側の人間性の問題」を挙げた。

 調査は複数回答。「育成・指導方法に対するジェネレーションギャップ」「パワハラの定義のあいまいさ」も40%を超えた。指導か、パワハラか―。世代ごとの認識や捉え方によって判断が分かれかねない。戸惑いを物語るように、別の問いでは、34%の働き手が「自分の行動がパワハラに当たるのではないかと思ったことがある」と答えている。

 パワハラは増加傾向にある。厚労省が進めた1万人規模の調査によると、2016年度は32・5%の人が過去3年間にパワハラを受けたと回答。企業の8割が相談窓口を設け、管理職への研修なども6割が取り組む一方で、12年度から7・2ポイント増えた。(ラン暁雨、林淳一郎)

    ◇

 【「パワハラ」と言われた経験ありますか】

 指導のつもりが若手にパワハラと言われた―。そんな悩みを持つ上司や先輩社員は多いようです。皆さんの職場ではどうですか。体験を聞かせてください。連載へのご意見、ご感想もお待ちしています。匿名希望の場合も連絡先をお知らせください。

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