くらし

【この働き方大丈夫?】第5部 非正規公務員の嘆き<5>識者に聞く

2020/9/20 18:50
寺本佳代弁護士

寺本佳代弁護士

 雇用の調整弁となっている非正規公務員が、暮らしに欠かせない業務を任されるケースも多い。連載第5部の最終回は、「非正規」で公務を担う働き方の危うさや、今後どうあるべきかについて識者に聞いた。

 ▽家事的労働、無意識に軽視 広島弁護士会 寺本佳代弁護士(41)

 非正規公務員の4人に3人は女性です。その背景には、女性の労働に対する軽視があります。とりわけ保育や介護、相談支援などのケア業務は典型的な「女性職場」ですが、待遇は低く、立場は不安定。1年更新が多く、いつ雇い止めになるか分かりません。

 「ケア業務は軽い仕事」「女性が家で無償で担っていたような仕事に高い金は払えない」という行政の本音があり、住民もそれを受け入れているのではないでしょうか。社会全体による無意識の「家事労働ハラスメント(家事的労働への軽視と嫌がらせ)」が起きていると感じます。

 例えば、相談員も安く使われています。しかし2000年以降、児童虐待防止法やストーカー規制法、DV(ドメスティックバイオレンス)防止法が施行され、役割は増しています。

 現場に求められるのは、経験と判断力、法律などの専門知識です。虐待やDVの裏には貧困、孤立などが複雑に絡んでいるケースが多い。問題の根っこを見極め、行政や警察と上手に連携しなければなりません。

 待遇が見合わないためにやめる相談員も少なくありません。それはケアが必要な人にとっても不幸です。相談相手との関係が一度切れてしまうと再構築が非常に難しい。救えたはずの命を救えない、ということになりかねません。この現実を雇用者である行政は理解しているのでしょうか。

 責任の重さに十分な対価を支払っているか。また、ダブルワークしないと生活できないような賃金の設定でいいのか。夫に養われている前提で雇うのは、もう時代遅れです。

 女性たちが担うケア労働を軽んじた先に何があるのか―。低賃金では人材が集まらないので公共サービスは劣化し、貧困や虐待はより深刻になるでしょう。行政不信が生まれ「あんなものにお金を出しても仕方ない」となれば、予算が削減される悪循環に陥ります。非正規公務員が抱える課題は結局、住民生活を脅かす問題として私たちに返ってくるのです。(ラン暁雨)

 てらもと・かよ 広島大法学部卒。07年に弁護士登録。広島弁護士会「両性の平等委員会」副委員長。児童虐待や性被害の法的支援に携わる。

 ▽絶望的な格差、変えるとき 地方自治総合研究所(東京) 上林陽治研究員(59)

 国も地方自治体も、非正規雇用の公務員の在り方を見直すときです。

 今後、人口がますます減り、高齢化も進みます。家庭内に埋もれていたさまざまな問題が顕在化してきているのに、正職員は削減されて手が回らない。困窮家庭の支援や児童虐待に対応する相談員ら住民の生の声に接しているのは、非正規職員が大半です。その仕事を再評価し、力をもっと生かさなければならない。

 注目したいのは、滋賀県野洲市です。非正規の消費生活相談員だった女性を正職員にして、今は課長に登用しています。相談現場で培った感覚と経験を市の施策につなげるためです。

 例えば、税の滞納の背景には、障害や多重債務などそれぞれの要因があります。そのSOSを相談業務でつかみ、支援メニューをそろえて提供する。すると、命を絶つ寸前だった滞納者が税を納める側に変わるのだそうです。

 現場で責任のある仕事を日々担っている非正規職員のことを考えると、今の待遇はひどすぎる。平均年収は地方自治体で、正職員の3分の1に届かない200万円未満がほとんどです。

 非正規だから低賃金にする正当性はあるのでしょうか。欧米で一般的な同一労働同一賃金の考え方は、常勤が8時間勤務で非正規が6時間なら、賃金は常勤の8分の6。同じ仕事をしているのに勤務時間が短いというだけで絶望的な格差を強いるのは不合理です。

 夫が正職員として長時間勤務し、妻は家事や育児に追われるか、働くにしても非正規が精いっぱい―。いまだ根強い「昭和」の雇用スタイルを、もう変える必要があるでしょう。

 住民が安心して暮らすには、安定した公共サービスが不可欠です。それには、多くのサービスを担っている非正規職員に、まずは仕事に見合った賃金を払わなくてはならない。私は正職員に切り替えていくべきだと考えています。働き方の模範となるべき行政が「やりがい搾取」と批判されるようでは、民間企業にも示しがつきません。(林淳一郎)

 かんばやし・ようじ 東京都生まれ。国学院大大学院経済学研究科博士課程前期修了。07年から現職。著書に「非正規公務員の現在」(15年)など。

 【非正規公務員の嘆き どう思いますか】

 非正規公務員の嘆き、どうすれば少なくできると思いますか。そのために新政権に求めることはありますか。連載へのご意見、ご感想もお待ちしています。匿名希望の場合も連絡先をお知らせください。

メール kurashi@chugoku-np.co.jp 「働き方」係
郵送 〒730―8677中国新聞くらし「働き方」係
ファクス 082(236)2321 中国新聞くらし「働き方」係
LINE 「中国新聞くらし」のアカウントへ こちら→


 ◇

 連載「この働き方大丈夫? 第5部非正規公務員の嘆き」は終わります。

【この働き方大丈夫?第5部 非正規公務員の嘆き】
<1>「嘱託さん」見下されてる感
<2>「やりがい搾取」限界寸前
<3>「穴埋め」のはずがブラック
<4>扶養前提? 安い「女の仕事」


この記事の写真

  • 上林陽治研究員

上記の写真をクリックすると拡大して表示されます。

  • 前の記事へ
  • 次の記事へ

 あなたにおすすめの記事

この働き方、大丈夫?の最新記事
一覧