• トップ >
  • くらし >
  • くらし >
  • 小児病棟から空想の旅へ 絵本作家・荒井良二さん、福山市民病院の壁を彩る

くらし

小児病棟から空想の旅へ 絵本作家・荒井良二さん、福山市民病院の壁を彩る

2020/10/13 19:50
鳥たちが集う大きな木。一つ一つ違う形のすみかは、思わずのぞき込みたくなる

鳥たちが集う大きな木。一つ一つ違う形のすみかは、思わずのぞき込みたくなる

 木の中の鳥の国、幻想的な花々、異国の街―。病棟を歩くと、まるで絵本のページをめくるように風景が変わる。9月下旬、福山市民病院の小児専用病棟で、国内外で活躍する絵本作家の荒井良二さん(64)=東京都=が描いた「ホスピタルアート」が完成した。

 荒井さんは、日本絵本賞大賞など数々の受賞経験を持つトップアーティストだ。2012年のNHK連続テレビ小説「純と愛」のオープニングのイラストを担当し、出身地山形であった芸術祭の芸術監督を務めるなど、活躍の幅を広げている。今回は、病気と闘う子どもたちに直接語り掛けるアートに魅力を感じ、引き受けたという。

 香川県小豆島町の小豆島中央病院に続き、2回目のホスピタルアートに臨む荒井さんが選んだテーマは「旅」。合計すると50メートル近くの幅がある壁に、アクリル絵の具でファンタジーの世界を描いた。

 入院ベッド26床を備える小児専用病棟には、外出はおろか病棟の外に出られない子どももいる。腎臓などの病気で5週間入院を続ける藤井太壱君(11)=福山市=は、アーチ型の橋の下に浮かぶ船を眺めて「元気になったら船に乗りたい」と話した。壁の絵を見ながら、退院後に行きたい場所を思い浮かべる。

 今回のアートをコーディネートした廿日市市の色彩プロデューサー稲田恵子さん(73)によると、中国地方では20年ほど前から、病院や診療所が壁や柱にアートを描く「ホスピタルアート」の取り組みが始まった。今は公立病院を含む30カ所近くに広がっている。

 今回導入を決めた小児科の安井雅人統括科長は、「ほんわか、ぬくもりがあって、引き込まれるアート。子どもたちもつらさや悲しさを少し忘れる時間ができるんじゃないか」とうれしそう。廊下を通る医療スタッフからも笑みがこぼれる。(標葉知美、写真も)

 ▽「緊張抜け出す 仕掛け必要」

 荒井さんにホスピタルアートへの思いを聞いた。

 ―なぜ旅をテーマにしたのですか。

 もし俺が子どもで入院中だったら、何が一番したいかなって考えた。旅、だと思った。

 入院中の子どもたちは、治療で痛かったりつらかったりする。友達と遊んだり、遠くへ出掛けたりすることもできず、我慢しなくちゃいけないことが多いんじゃないかな。でも、絵を眺めて、その世界に入り、冒険の続きを頭の中で考える。そういう楽しみ方の「旅」があると伝えたかった。

 ―所々にゾウのバスが出てきますね。

 ゾウバスは、「たいようオルガン」(偕成社)という絵本の主人公。スタート地点もゴールもない。どこで乗ってもいいし、降りてもいい。子どもたちに自由に旅してもらう案内役なんです。

 4日間の滞在中に入院中の子どもや医療スタッフの声を聞き、病棟の雰囲気を見ながら想像を膨らませていった。緊張した空気から抜け出すための仕掛けがいると思った。

 ―絵本とホスピタルアート、違いはありますか。

 あまりないんですけどね…。ただ、兄が病院関係の仕事をしているので患者の思いやスタッフの大変さを知る機会がある。医療現場で、人の心を明るくする色の力を生かす手伝いをライフワークにしていきたい。

 この絵を見て元気になってというんじゃない。違う世界へ飛んでいく時間をつくってもらえたらうれしいです。

 あらい・りょうじ 56年山形県生まれ。日本大芸術学部美術学科卒。「たいようオルガン」でJBBY賞、「きょうはそらにまるいつき」で日本絵本賞大賞など。05年に「絵本の世界のノーベル賞」といわれるアストリッド・リンドグレーン記念文学賞(スウェーデン)を日本人で初めて受賞した。

この記事の写真

  • スタッフステーション前に広がる花畑。医師らも足を止め、ほっと一息つく
  • あてのない旅へといざなうゾウバス
  • 廊下を歩く入院中の子ども。ゾウバスを追いかけてゆっくりと進む
  • 多忙な医療スタッフもアートに目をやり、笑みがこぼれる
  • 絵本作家・荒井良二さん

上記の写真をクリックすると拡大して表示されます。

  • 前の記事へ
  • 次の記事へ

 あなたにおすすめの記事

くらしの最新記事
一覧