くらし

酒造り、縁を醸す挑戦 広島杜氏組合長・石川達也さんに聞く

2020/10/21
広島杜氏組合長・石川達也さん

広島杜氏組合長・石川達也さん

 ▽竹原の竹鶴酒造から茨城へ

 酒どころ広島の伝統を重んじ、独自の酒造りに打ち込んできた広島杜氏(とうじ)組合長の石川達也さん(56)。江戸時代から続く竹原市の竹鶴酒造から今秋、茨城県の酒蔵に移った。杜氏として向き合ってきた「広島の酒」とは―。酒造りにかける思いをあらためて聞いた。(林淳一郎)

 ▽「ならではの味」。蔵の個性を土地に合わせ磨く

 ■広島の酒

 「小味(こあじ)の利いた酒」。そう教わってきました。広島の酒って、小気味のいい味わいなんです。瀬戸内の小魚もそう。派手じゃないけど、しみじみおいしい。人間でいえば、渋くてかっこいい感じです。

 その礎を築いたのが、明治期の三浦仙三郎です。広島の軟水はミネラルが少ない分、酒が腐りやすい。それを克服しようと、三浦は先進地を回って学んだ。最新の醸法や技を周りの蔵にも伝え、広島の酒はぐんとレベルアップしたわけです。

 三浦が説いたのは、いかに基本を忠実に守って醸すか。〓(こうじ)を造る〓室(こうじむろ)という部屋をどう造るかなど、一つ一つの技術を丹念に磨き上げた。そのおかげで、私たち広島杜氏は恐れることなく酒造りができる。先人への信頼は揺るぎません。

 伝統の技をしっかり受け止めようと、広島杜氏組合で「廣島酒文庫」の刊行を始めました。昨年は三浦の著書「改醸法実践録」を復刻し、この秋も第2弾を送り出しました。難解な文献だけど、手に取って先人たちの奮闘ぶりに触れてほしい。それは、これからの酒造りにとっても意味があると思うんです。

 実際、酒には土地ごとの個性が出ます。日本の中でも広島の、広島の中でも竹原の…というように。志してきたのは「ならではの酒造り」です。蔵の個性を磨くということ。24年間、杜氏を務めた竹鶴酒造でも貫いてきました。味がすっきりしているとか、トレンドを追うのは演出にすぎない。地元の自然環境に合わせて醸せば、個性はにじみ出てきます。

 ▽コロナで気付かされた。人と人をつなぐ役割

 ■造り手として

 こんな面白い仕事はないと感じています。どの蔵もほぼ同じ原料と造り方なのに違う酒ができる。シンプルだからこそ、バリエーションが出るのかもしれません。酵母などの微生物たちも酒の造り手です。彼らが力を発揮できる環境を整えるのが杜氏の役目。ただ甘やかすのではなく、しつけはきちんとする。どこか子育てに似ています。

 悩ましいのは、日本酒離れです。おいしいというだけでは飲まれない。新型コロナウイルス禍でさらに売り上げが落ちる中、あらためて気付かされたことがあります。酒は関係を紡ぐものだと。人と飲み、店の雰囲気や料理を味わう。楽しい時間を共有するためのツールの一つなんです。

 子どもたちの食育のように、大人を成長させる「酒育」があってもいい。互いに少し気を使いながら酌み交わす。若い人は嫌うようだけど、みんなで心地いい場をつくる。「やっぱり酒がないと」。そう見直してもらえるよう、人と人をつなぐ酒造りを追求したい。

 ■新天地で

 新たな酒蔵は、茨城県大洗町の月の井酒造店です。太平洋からも近い。これからの酒造りを見据えて、「蔵を改革したい」とオファーを受けたんです。水や米、気候風土も広島とは違う。どんな酒ができるのか、新鮮な気持ちでいっぱいです。

 蔵に寝泊まりして仕込みます。新酒ができるのは年末年始ごろ。これまで通り広島杜氏組合長は続けます。夏場は広島に戻り、冬場は茨城へ。「改革」の道筋がつくまで、そんな暮らしが続きます。広島の酒のPRはもちろん、いずれは再び広島の地で酒造りに力を注げるよう、縁を広げていくつもりです。

 いしかわ・たつや 東広島市生まれ。早稲田大第二文学部卒。埼玉県の神亀酒造を経て竹原市の竹鶴酒造に入り、96年から今年7月まで杜氏を務めた。14年から広島杜氏組合長。映画「恋のしずく」(18年公開)の監修も担った。ニックネームは「酒ゴジラ」など。

【お断り】〓は「麹」の旧字体ですが、JISコードにないため表示できません。

この記事の写真

  • 広島杜氏組合が昨年から復刻を始めた「廣島酒文庫」
  • 広島などの酒をそろえ、広島国税局が開いた「きき酒交流会」(2018年4月、広島市中区)
  • 石川さんの古里であり、酒都として知られる東広島市中心部の酒蔵群

上記の写真をクリックすると拡大して表示されます。

  • 前の記事へ
  • 次の記事へ

 あなたにおすすめの記事

くらしの最新記事
一覧