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子どもの時の性的虐待 上げた声を守るために

2020/11/22
「Spring」の山本潤代表理事

「Spring」の山本潤代表理事

 子どもの頃に受けた性的虐待は、長年たって声を上げる被害者が少なくない。広島市では40代の会社員女性が損害賠償を求め、父親を提訴し、裁判が続いている。声を上げるのに時間がかかるのはなぜなのか。どのような支えが必要なのか。専門家に聞いた。(馬上稔子)

 ▽長年残る心の傷、正しく理解して 性被害の当事者らでつくる団体「Spring」山本潤代表理事

 ―性的虐待の被害者が長年たって声を上げるケースが目立ちます。

 Spring(スプリング)が性被害を受けた人を対象にした今年のウェブアンケートでは、挿入を伴う被害の場合、身近な人に初めて打ち明けるまでの期間は、平均6・58年でした。21年以上かかった人も1割弱を占めます。

 ―なぜ、すぐ相談できないのでしょう。

 性的な行為が理解できていない子どもの場合、被害を受けていると認識することも難しいでしょう。被害が続くと、恐怖を感じ、違和感があっても、それが異常だと意識できないこともあります。トラウマ(心的外傷)により記憶が断片的に失われる人もいます。

 被害を認識できても、それを思い出したり、他の人に伝えようとしたりすると、フラッシュバックや鬱(うつ)症状が出るケースもある。

 家族が加害者のケースは、それ以上は被害を受けない安全な場所がなければ話せません。私自身、13歳から7年間、父親からの性被害を受けましたが、母親にはっきりと伝えることができたのは、父親と離れて暮らすことが決まってからでした。

 周りの受け止めも心配で、声を上げるにはエネルギーが要るし、時間がかかるのです。

 ―被害者には、どのような支えが必要ですか。

 何よりも、性暴力が何なのかという社会的な認識が圧倒的に不足していることが問題なんです。例えば、いまだに女性が誘惑して罠を仕掛ける「ハニートラップ」ではないか、と勘ぐる人がいる。「なぜ夜に1人で歩いていたのか」などと被害者を中傷する人もいます。でも、同意のない性行為は、加害者に100%の責任があるのです。

 周囲の人はまず、性暴力について正しく理解してほしい。見ず知らずの人がいきなり襲うことだけが性暴力ではありません。知り合いや家族からの被害がむしろ多いことも、あまり知られていません。

 既に傷ついている被害者を心ない言葉でさらに傷つけないでほしい。被害をそのままに理解することから支援が始まります。

 やまもと・じゅん 13歳から7年間、父親から性暴力を受けたサバイバー。性暴力被害者支援看護師(SANE)。17年、性被害の当事者らでつくる一般社団法人Springを設立した。

 ▽誰にも言えず時効、法の見直しを 立命館大法科大学院松本克美教授(民法、時効論)

 ―子どもの頃の性的虐待について、声を上げても法的な「時効」が壁になるケースがあります。

 子どもの被害者は、年齢によっては性的虐待に遭っているという認識すらできません。裁判を起こすなど思い付かない。その間に時効が過ぎてしまうのは、適切ではありません。時効によって加害者の責任を追及しないことは、ようやく声を上げることができた被害者に対する司法による「二次被害」になり得ます。

 ―松本教授が関わった北海道の損害賠償の訴訟では、性暴力による損害が発生した時期をどうみるかがポイントでした。

 北海道・釧路市出身の女性(提訴当時30代)が、3〜8歳のときに親族から受けた性的虐待に対し、損害賠償を求めて提訴した裁判です。2015年、最高裁は女性の訴えの一部を認め、賠償を命じる判決を確定しました。提訴時点で虐待行為から20年以上が経過していましたが、30代でうつ病を発症した時期を「損害が発生した時」と認定しました。

 私は控訴審の際に意見書を書きました。被害者が誰にも言えず何年もたってしまうのは特別な例ではないと感じました。性的虐待の特質に合った時効論を検討する必要があると強く思います。性的虐待を巡る日本の法制度は海外に比べて遅れていると感じます。

 ―海外では進んでいるのですか。

 ドイツでは、性的虐待の被害者が満21歳になるまでは損害賠償請求権の時効が停止します。さらに30年間(満51歳まで)は権利行使ができるよう、段階的に法改正が進みました。韓国でも、13歳未満に対する性暴力については公訴時効が廃止されています。

 一方、日本では強制性交等罪の公訴時効は10年。民事でも不法行為に対しては、時間の経過で損害賠償請求権が消える20年の「除斥期間」の解釈が使われてきました。

 しかし、特に子どもへの性的虐待の場合、時効により被害者の権利を消滅させる合理的理由はありません。権利の消滅ではなく、権利が保障されるような新たな視点が必要です。

 まつもと・かつみ 早稲田大法学部卒、同大大学院法学研究科博士後期課程満期退学。ジェンダー法学会副理事長。ドイツと韓国で性的虐待の被害者支援の法整備について調査した。

 ▽児童相談所対応の性被害 18年度、広島は49件

 厚生労働省によると、2018年度に全国の児童相談所が対応した性的虐待は1730件。中国5県でも、広島49件▽山口3件▽岡山9件▽島根2件▽鳥取2件―となっている。

 全国の対応件数は、児童虐待防止法が施行された00年度に比べ2・3倍に増えた。だが支援者たちは「表に出ているのは氷山の一角」と口をそろえる。

 広島県によると、県が開設した「性被害ワンストップセンターひろしま」には19年度、性被害に関する新規の相談が270件寄せられた。そのうち、44%が20代以下からで、未成年の性被害についても本人や母親から相談があるという。

 ▽広島市の女性の民事訴訟

 広島市の40代会社員女性が、保育園児の頃から中学生まで父親から性的虐待を受けていたとして、損害賠償を求めて広島地裁に提訴。父親側は、性交などの行為をしたことは認めたが、期間や頻度について女性の主張を一部否認。行為から20年以上が経過し「損害賠償請求権が消滅している」などとして請求棄却を求めている。

 ▽性犯罪を巡る刑法改正

 2017年の刑法改正で性犯罪は厳罰化された。親などの「監護者」が立場を利用して18歳未満に性的な行為をすれば、暴行や脅迫がなくても罰することができる「監護者わいせつ罪」などが新設された。

 一方、犯罪行為が終わって一定期間が過ぎると起訴を認めない「公訴時効」は残り、強制性交等罪で10年となっている。改正から3年目の今年は、性暴力の被害者や専門家たちを交えた法務省の検討会が、性犯罪を巡る刑法の在り方について議論している。

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  • 立命館大法科大学院の松本克美教授

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