くらし

【この働き方大丈夫?】第7部 長引くコロナ禍の中で<上>大企業なのに…副業しないと

2020/12/15 20:26
グラフィック・大友勇人

グラフィック・大友勇人

 長引くコロナ禍が、働く人たちを脅かしている。中国地方の解雇や雇い止めは4千人を超えた。収入が大きく減る人、仕事が見つからない人…。学生たちは就活で苦戦を強いられている。感染の「第3波」が高まる年の暮れ、街には切実な声が響く。

 ▽減収分、想定外の日雇い

 団地の入り口でずっしり重いチラシの束を抱え、中国地方の20代男性はため息をついた。印刷物を投函(とうかん)するポスティングは、思った以上の体力仕事だ。「副業」として始めて半年。「安定を求めて大手の正社員になったのに、こんな日が来るなんて思いませんでした」

 観光関連の勤め先はコロナ禍で大打撃を受けた。春先からは自宅待機が増え、月収は大きく減って15万円に届かない。頼みのボーナスもゼロ。夏前に会社が副業を解禁してすぐ、日雇い仕事を仲介するアプリに登録した。スキルがいらず気軽に始められそうなのがポスティングだった。

 月5日、指定された駅に集まり業者の送迎車に乗り込む。学生や主婦に混じり、会社員風の人もいる。「コロナの影響かな」と想像しながら団地へ。暑い日も寒い日も、チラシの束を抱えて歩き回る。200〜300軒に投函して日当は7千円足らず。インクで黒ずみ、荒れた手を見て思う。「副業は自由で柔軟な働き方」と言うけど、好きでやっている人はどれだけいるんだろう。

 同僚たちも同じように、副業にいそしんでいる。料理の出前サービス「ウーバーイーツ」の配達員、ファストフード店の店員…。みんな気は進まないものの「給料が足りないなら自分で稼げ、という会社のメッセージだから仕方ない」と諦めている。それにしても自助努力を求めるなんて―。組織は冷徹だ。

 いまは事業縮小を検討し、さらなる給料カットや早期退職の募集を進める。大企業でも簡単に「暗転」する時代。「次は景気に左右されない公務員を目指す」と試験勉強を始めた同僚を横目に、気持ちがざわつく。「副業しないと生活できない給料じゃなあ…」。転職が現実味を帯びる。

 コロナ禍に振り回されるうち、仕事への向き合い方が変わろうとしている人が増えているようだ。

 広島市で写真事務所を営む男性(50)は「収入ゼロ」に直面し、本業とは別の仕事を掛け持ちして暮らす。でもやってみて思うのは、何とか生きていけるということ。「吹っ切れたのは、ある意味、コロナのおかげかも」と苦笑する。

 この年の瀬も、手にするのはカメラではなく、配線工事の工具。山陰の建築現場へ10日間ほど赴き、日当1万2千円で働く。思い切ってやってみると、これも楽しい。「こうなると怖いものがなくなって」

 5月ごろからカメラの仕事はがくんと減った。「3密」になりがちな結婚式の撮影も、雑誌のイベント取材も。追い打ちをかけるように、妻の勤め先も休業になった。この春、2人の子どもが大学と高校に入学したばかり。収入ゼロは「想定外」だった。

 ふと思う。「あの誘いがなかったら、どうなっていたか」。なじみのガソリンスタンドに立ち寄った時のことだ。「仕事がない」と店長に打ち明けると、「うちでバイトしないか?」と誘われ、二つ返事でOKした。もう50歳。「雇ってくれるところなんてないだろう」。諦めかけていた自分にスイッチが入った。

 昼間は給油スタッフとして働き、深夜は物流倉庫で荷物の仕分けをした。週末はバイクにまたがって弁当チェーン店の配達も。「トリプル副業」をこなし、いま考え始めている。「一つの仕事にしがみつかない働き方もありなんじゃないか」

 カメラの仕事はいまだ回復途上。当面、配線工事の収入を軸にするつもりだ。「ひるまずに、できることをやった方が気持ちもへこまない」。コロナ禍は転機になるかもしれない。

 ▽仕事掛け持ち、やむを得ぬ選択 中国地方「解禁」27.8%、長時間労働の懸念も

 仕事を掛け持ちしてスキルやキャリアを磨き、やりたいことにチャレンジする―。副業といえば、そんな前向きなイメージを持つ人が少なくないだろう。ただ、世はコロナ不況。副業ニーズが高まりを見せる中で、危うい実情も見え隠れする。

 それは、人材サービスのエン・ジャパン(東京)が7〜9月に実施した全国調査からもうかがえる。回答した約6300人のうち半数が「副業を希望」し、理由(複数回答)は「収入アップ」が断トツの1位。5人に1人は「失業したときの保険」と答えている。

 長引くコロナ禍で収入と雇用が揺らぐ。苦境をしのぐ手だてとして、副業がいきおいクローズアップされているようだ。

 政府も2018年、働き方改革の一環で、副業の推進にかじを切った。それまでの「原則禁止」から「原則容認」に変更。ガイドラインもまとめた。人口が減り、労働力はいっそう限られてくる。一人一人の能力を複数の職場でいかんなく発揮してもらい、経済の成長につなげていく―。そうした自由度の高い働き方として期待がかかる。

 18年は「副業元年」と呼ばれ、大手メーカーや旅行会社が「解禁」した。ところが、その後の伸びは緩やかで、解禁した企業は全国で30%ほど。中国地方でも東京商工リサーチ広島支社の10月の調査によると27・8%にとどまる。

 最も懸念されるのが、副業に伴う長時間労働だ。仕事が増えて休めなくなったり、職場が複数にまたがるためにその人の働き方全体を見通した労務管理が難しくなったりする可能性がある。ほかにも、社員の転職を招かないか、他社に情報や技術が流出しないか、企業のためらいは拭いきれていない。

 半面、副業を認めている企業は、人材の確保や社員の人脈の広がりなどをメリットに挙げる。副業という働くスタイルにどう向き合っていけばいいのか。働き手も企業もいまだ模索の中にある。(ラン暁雨、林淳一郎)

 ▽幸せ度、上がるかが大切 福山市が進める「副業モデル」の共同研究者・法政大大学院の石山恒貴教授(56)

 副業はどんな効果を生むのか。注目したいのが、福山市の取り組みです。

 民間企業で働く会社員たちに副業として、市の「戦略推進マネージャー」を担ってもらっている。採用された人は、本業ではできない経験を積めてキャリアの形成にもつながる。市にとっては外部の発想やノウハウを施策に組み込めます。市職員だけでやり切ろうとする「自前主義」の打破です。

 一方で、コロナ不況に促される副業はどうでしょう。ダウンした収入を補うのも副業のありようですが、ネガティブな働き方だと思います。過重労働にもなりかねません。

 仕事を掛け持つのなら、無理なくできるかどうかが大切です。モチベーションや幸せ度がどれだけ上がるか。その結果として、企業や組織の業績アップも期待できるのです。

 そもそも副業は、働く上での選択肢を広げるものです。何が何でも、誰もがしなければということではありません。やりたい人がやる。副業したいときにできる。選べる環境が整っているかどうかで、働きやすさが変わってきます。

 得てして、副業は限られた人の働き方に思われがちです。能力やスキルがないとできない、と。そうではなく、もっと広い視点で見つめてほしい。働きながらボランティア活動をしたり社会人大学で学んだり。その一歩先にあるのです。別の企業と雇用契約を結ぶだけではない。ライターや講座の講師…。フリーランスを条件に副業を解禁している企業もあります。

 ただ、副業を解禁するというのは、実はおかしな話です。就業時間外は基本的に何をしてもいい。企業が社員を縛り、社員は企業に尽くす慣習からそろそろ抜け出さないと。社会貢献したいなど、若い世代の価値観も多様化しています。

 コロナ禍でテレワークが広がりました。いつ、どこでも働ける。うまく組み合わせると副業もしやすくなるはずです。企業もコミュニティー。いくつかの職場に関わることで、人生もより豊かになるかもしれません。

 ≪福山市の「副業限定」戦略推進マネージャー≫2018年度、民間企業に勤務する社員を対象に兼業・副業限定で、市の人口減少対策を立案する人材として公募した。首都圏などの男女5人を採用。市役所で月4日ほど働き、2年間活動した。20年度も新たな人材を採用している。

 【本業に打撃がありましたか】

 正社員でも副業しないと生活できない、家族を養えない。そんな現状をどう思いますか。コロナ禍で給料やボーナスに影響が出ている人も多いようです。皆さんのご意見や体験談をお待ちしています。匿名希望の場合も連絡先をお知らせください。 

メール kurashi@chugoku-np.co.jp 「働き方」係
郵送 〒730―8677中国新聞くらし「働き方」係
ファクス 082(236)2321 中国新聞くらし「働き方」係
LINE 「中国新聞くらし」のアカウントへ こちら→

この記事の写真

  • グラフィック・大友勇人
  • 石山恒貴教授

上記の写真をクリックすると拡大して表示されます。

  • 前の記事へ
  • 次の記事へ

 あなたにおすすめの記事

この働き方、大丈夫?の最新記事
一覧