くらし
【この働き方大丈夫?】第7部 長引くコロナ禍の中で<下>就職浪人、親に言えなくて
秋も深まり、少し寒くなってきた10月。下宿先のベッドに腰掛け、実家に電話しようと思うのに、発信ボタンを押せない。広島県内の男子学生(22)は「就職浪人」することを、親にしばらく報告できなかった。「情けないし、心配掛けたくないし。コロナがなければ、こんなに苦労しなくて済んだんですかね」
▽「売り手」一変、怒り
就活の風景は、1年前とはまるで違うものになっていた。説明会も選考も延期続きで、ペースがつかめない。ウェブ面接にも足がすくんだ。回線が不安定になると、シャツがぬれるくらい冷や汗が止まらなくなった。「僕、それでなくてもコミュ力ないのに…」。ウイルスがもたらした激変に付いていけなかった。
大学の授業はオンラインで友達と会えず、相談もしにくい。週2日のバイト以外は家から出ない。一人きり、もんもんと眠れない夜が続き、気分が落ち込んだ。ついに心が折れたのは、ネットの書き込みを見た時。企業が採用を絞り「学歴フィルターが鮮明になっている」とか。それなら自分は大学名で門前払いされる―。「もう駄目だ」とスマホを放り投げた。
空前の「売り手市場」だった昨年に、妬みすら覚える。先輩たちは「夏前には決まる」と言っていたのに。受けた企業の大半から採用された「内定長者」もいた。たった1年の差で見る景色が全然違う。「何で僕は今年が就活なんだよって…。ついてない」。卒業したらバイトしながら、就活をやり直すしかない。
内々定を取り消された人もいる。広島市の女子学生(22)は今春、撮影モデルをしたことがある美容関係の企業から「ぜひうちに入社して」と誘われた。希望の業界に早々に決まったと喜んだのに、夏に担当者から電話で一方的に言われた。「新卒採用する余裕がない。あの話はなかったことにして」
感染拡大で客足が遠のき、急激に業績が悪化したという。「今更言われて、どうしろっていうの」。頭が真っ白になった。約束違反と抗議すると「じゃあ君はコロナの影響を予想できたわけ?」と開き直られた。悔しすぎて涙も出なかった。
「内々定が一転、NNT(無い内定)ですよ」と、女子学生はため息交じりに言う。「こっちは人生かかっているのに無責任すぎる」。怒りは収まらないまま、再度の就活のために髪を黒く染め直し、出費がかさんでまた腹が立った。
同級生が卒論を書いている傍ら、通年採用の企業を探し、一人きりの就活。内定した友人から「大丈夫?」と聞かれると、もやっとする。内定の優越感をちらつかせる「就活マウント」を取られたようで。「卒業まで3カ月。年内に決めないと」と焦りが募る。
中国地方の大学でキャリア相談を担当する男性は、「地方の私立大ほど、コロナの打撃を受けやすいんですよ」と明かす。飲食や小売りなどサービス業への就職が多いからだ。今もまだ相談の予約が相次いでいるという。
別の大学の教員は「支援したいですが、コロナ禍の中では難しい」と悩む。大学に来る機会が減った学生の状況はつかみにくい。「コロナ世代、という第2の就職氷河期が生まれるかもしれません」。心配しながら、グループLINEで激励の言葉を発信している。(ラン暁雨)
▽企業の採用意欲、低下
「売り手市場」と言われた新卒の就活に逆風が吹いている。広島労働局の調査によると、広島県内で来春卒業する大学生の内定率(10月末時点)は65.8%にとどまり、前年同期から6.0ポイント減った。減少幅はリーマン・ショックの影響を受けた2009年、平成不況の真っただ中の1999年に次ぐ大きさだった。
観光や宿泊など、コロナ禍の打撃が特に大きい業種で求人が減っている。企業の採用意欲も低下し、ひろぎん経済研究所(広島市中区)が県内企業を対象に行った調査では「来春の新卒採用を減らす」と答えたのは29.7%、「採用しない」も13.2%に上った。
【就活への影響、お知らせください】
コロナ禍が就活に及ぼす影響を感じていますか。就職氷河期の再来も懸念されているようです。学生や保護者、大学関係者の皆さん、体験談やご意見をお待ちしています。匿名希望の場合も連絡先をお知らせください。
メール kurashi@chugoku-np.co.jp 「働き方」係
郵送 〒730―8677中国新聞くらし「働き方」係
ファクス 082(236)2321 中国新聞くらし「働き方」係
LINE 「中国新聞くらし」のアカウントへ こちら→
2019年12月から始まったこの連載。計8部の取材で出会った人は100人以上に上ります。読者からも300件近くの反響が寄せられました。最終回は、先行きが不透明な時代の「働き方」をテーマに多くの皆さん...
私たち働き手はもう、組織に依存ばかりせず、自らの手で仕事のスタイルを選択していくときではないでしょうか。「選ぶ」と「学ぶ」。一人一人が自立して働くためのキーワードとして浮かんできます。 「働くという...
どうすればもっと働きやすくなるのでしょうか。場所や時間にとらわれず、複数の組織で横断的に仕事をする「複業」を上手に取り入れられるかどうかが一つの鍵になりそうです。 一つの組織で生涯働く「日本型雇用」...
人生100年時代、私たちは「働くこと」とどう向き合えばいいのか―。そんな問い掛けから始めた連載計8部の取材から見えたのは、長時間労働に象徴される「日本型雇用」の限界と、組織に絡め取られて「自立できな...
新型コロナウイルスの拡大防止のために自宅でテレワークをする機会が増えると、椅子の座り心地が気になる人も多いだろう。家にある椅子を使ううちに体がつらくなるケースもある。感染状況が落ち着いた後も広がりそ...