くらし
【コロナ禍と介護 水明園からのメッセージ】高齢者ケアを守るために<上> 誹謗中傷せず温かい目で
新型コロナウイルスの感染が広島県内で急拡大する中で、介護という営みを守っていくにはどうすればいいのか。4月、クラスター(感染者集団)が発生した三次市の高齢者施設のうち唯一名前を公表したデイサービスセンター水明園が、初めて取材に応じた。職員から寄せられたメッセージを届けたい。
感染者が出た施設の関係者を誹謗(ひぼう)中傷しないでほしい。感染者に非はないし、現場は拡大を抑えるのに必死だ。そのさなかに利用者や職員、家族までもが攻撃されたらどんなにつらいか。何より支えになるのは、周囲の温かいまなざしなんです。
「名乗り出て本当に良かったのか」。水明園の当時の男性責任者は、今でも時折、考え込んでしまう。周囲には「英断だ」「おかげで感染を最小限に抑えられた」と言われるが、答えが出ないという。「代償があまりに大きかったんです」
▽鳴り止まぬ電話
公表の翌日、事務所の電話は朝から鳴りっぱなしだった。「(利用者を)家に閉じ込めておけ」「おまえらのせいでマスクがなくなるんだ」…。心ない言動は利用者やその家族にも向けられた。検査結果が陰性でも、近所を歩くだけで白い目で見られる。利用者と同居していないのに、会社から自宅待機を命じられた家族もいた。
水明園で現場主任だった女性職員は「夜も眠れなかった」と振り返る。自らもいつ感染するか分からず、家族から離れ、市内にアパートを借りた。電話対応や消毒作業を終え、夜遅く、誰もいない部屋に帰る日々。「悪夢なら覚めてほしいと、布団の中で毎晩、祈りました」
「悪夢」の始まりは4月9日。ある利用者女性のかかりつけ医から「PCR検査で陽性が出た」と電話があった。この女性は他の事業所の介護サービスも併用していた。そこの職員らが女性より先に発熱や味覚異常を発症していたという。
デイサービスは当時、1日45人を上限に計96人を受け入れていた。すぐに翌10日からの休業を決定。利用者や家族の動揺は大きかった。検査を受けるよう頼むと「うちのばあさんはもう終わりじゃ!」と声を荒らげる人もいた。ある女性職員は「申し訳なさで胸が張り裂けそうだった」と涙ぐむ。
独居の人や家族が付き添えない人は、職員が車で送って検査してもらった。感染リスクはあるが、担当者の1人は「気にしとる場合じゃなかった」。利用者全員が検査を受け、新たに22人の感染が分かった。
▽救いは応援の声
神経をすり減らしながら対応に奔走する中、誹謗中傷に追い打ちを掛けられる日々。心身ともに疲れ果て、一時は体調を崩した職員もいた。その一人は「他の事業所でも感染者が出たのにうちが『元凶』と言われ、集中砲火を浴びる。本当にきつかった」と明かす。
悪い印象が消えないのか、感染後に亡くなった人の遺族が別の介護事業所を提訴した時もネットなどで「被告」とみなされ、非難されたという。
救いは理解者にも恵まれたこと。自らも傷つきながら「大変でしょうが、頑張って」とねぎらってくれた利用者たち。励ましの手紙や応援物資も届いた。「水明園の皆さん コロナに負けないで 応援しています」。地域には、そんな手作りの看板を軒先に掲げてくれた人もいた。職員は口々に言う。「温かい声援があったから、何とか持ちこたえられたんです」(文・田中美千子、写真・高橋洋史)
◇三次市の介護現場で発生した新型コロナウイルスのクラスター
広島県が4月12日、県内初のクラスターが三次市の介護現場で起きたと発表した。感染者は市内4事業所の利用者、職員たち計39人に広がった。高齢者は複数の事業者の介護サービスを併用することが多いため、感染への不安から、市内の9割超の事業者がサービスの休止・縮小に踏み切り、高齢者の生活に大きな影響が出た。
【コロナ禍と介護】
最期は「大切な人と」 増える在宅みとり、面会制限の病院避けて
<縮むサービスの中で>
<上>通所やめて弱った母 感染を懸念「守りたかった」
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