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「緊急避妊薬」市販化の動き 早期服用で高い効果、求める声強まる

2021/1/12 20:10
国内で承認されている緊急避妊薬

国内で承認されている緊急避妊薬

 避妊に失敗した、性被害に遭った―。そんなときの最後のとりでが「緊急避妊薬」だ。現在は医師の処方箋が必要だが、薬局で買えるようにすることを国が検討している。性行為の後に早く飲むほど効果があるためだ。市販薬化を求める声も少しずつ強まっている。

 ▽安易な使用を繰り返す恐れ 医療現場に根強い懸念

 広島県の30代女性は2年前、緊急避妊薬を服用した。交際相手と性行為をした直後、コンドームが破れていることに気付いた。「妊娠したらどうしよう」と激しく動揺。薬の存在は知っていた。しかし夜間で病院は開いておらず、その晩は不安で眠れなかった。

 翌朝は仕事だったが、半休を取った。少し遠いが評判のいい女性医師がいるクリニックを受診したかった。友人がかつて病院で医師から避妊の失敗を責められ「傷ついた」という話を聞いていたからだ。

 処方された薬は保険が効かず、初診料を含めて1万円以上もかかった。早く薬が飲みたいのに、医療機関を受診するのはハードルが高いと感じた。「近所の薬局で買えたら、心理的にも金銭的にも負担が減るのに」と女性。市販薬化の動きには「妊娠のリスクを負う女性の目線で議論を進めてほしい」と望む。

 緊急避妊薬は、排卵を抑える作用がある。性交して72時間以内に飲めば8割の確率で妊娠を防げるとされる。性交後24時間以内なら95%。48時間以内で85%。72時間以内で58%。早く飲むほど効果が高い「時間との勝負」になる。現在、国内で手に入るのは「ノルレボ」とその後発薬。吐き気やだるさといった副作用はほとんどないが、6千〜2万円と高額だ。

 市民団体「緊急避妊薬の薬局での入手を実現する市民プロジェクト」は昨秋、厚生労働省などに、医師の処方なしで薬剤師から購入できるよう要望書を提出。10万人以上の賛同署名も付けた。要望を受けて国は、専門の研修を受けた薬剤師の説明を聞いた上で、目の前で服用することを条件に市販の仕組みを検討する方向だ。

 プロジェクトによると、緊急避妊薬を薬局で入手できる国は約90カ国。数百〜数千円と安く、18歳以下は無料の国もある。世界保健機関(WHO)も「安全に使用できる薬で、医学的管理下に置く必要はない」としている。

 しかし、医療現場には薬局販売を懸念する声が根強い。2017年の厚労省の検討会議では日本産科婦人科学会が「安易な使用を繰り返す恐れがある」と否定的な見解を示し、販売解禁が見送られた。排卵のタイミングをずらす薬で、頻繁に使えば効果が不確実になるリスクもあるという。学会は今回も「時期尚早」と慎重な姿勢だ。

 広島市のある産婦人科医は、市販薬化のニーズを理解しつつも「対面診療でなければ分からない症状もある」と話す。服用後の不正出血を月経と勘違いして妊娠に気付かない人もいて、医師による継続的な診察が必要と考える。

 この医師は受診者には再来院を勧めて、より計画的に避妊できる低用量ピルを紹介する。「緊急避妊薬はあくまでも緊急手段。日常的な避妊方法ではないことをどれだけの人が理解しているか、不安は残る」と打ち明ける。

 ▽望まぬ妊娠防止へ、緊急避妊薬身近に にんしんSOS広島の支援コーディネーターで看護師 森川身江子さん(48)に聞く

 広島県に委託され、予期しない妊娠に悩む人の相談を無料で受けています。「コロナ自粛」で恋人と過ごす時間が増えた若い世代や、夫から性暴力を受けている女性たちもいる。望まない妊娠や中絶の苦しみを防ぐため、緊急避妊薬が身近になれば大きな前進です。

 若い人にとって産婦人科を受診するハードルは高い。避妊薬をもらおうとして「医師から説教された」「未成年者が保護者の同意書の提出を求められた」といった不適切な対応も耳にします。

 「親バレ」を恐れたり、高額な薬代が払えなかったりして、入手を断念するケースは少なくない。そうした人がSNSなどで売買されている安全性が担保できない薬に手を出してしまう恐れもあります。安全な避妊薬にアクセスできず、やむなく出産した結果、児童虐待につながることもあります。

 そもそも女性が妊娠の不安に駆られる背景に「男性本位のセックス」がある。日本の避妊はコンドームが主流。着けるか否かの決定権を男性が握っており、「彼氏に嫌われたくない」と避妊を言い出せない人もいます。海外では肌に貼る「避妊シール」や「避妊注射」など女性主体の避妊法が充実しており、日本は遅れています。

 「性」について語るのはタブーという価値観も根強い。妊娠や出産は女性の人生に大きな影響を与えるのに、身を守る手段を学ぶ「性教育」が不十分です。嫌なことは嫌と言っていい。体や健康についての「自己決定権」がもっと認められるべきです。(ラン暁雨)

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  • 緊急避妊薬を服用した経験がある広島県内の女性。市販薬化の動きを歓迎する
  • にんしんSOS広島の森川さん

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