くらし
【この働き方大丈夫?】第8部 シニアの悲哀<4> 提言を2人に聞く
シニアが仕事にやりがいを感じ、活躍できるようにするためには、受け入れる企業の環境づくりも鍵を握りそうだ。働く一人一人にもどんな心掛けが求められるのだろう。シニア就労の実情に詳しい2人からメッセージをもらった。(林淳一郎、ラン暁雨)
▽法政大大学院の藤村博之教授(64)=人材育成論
■支える企業へ 50代から学びの機会を
人手が不足し、シニアの力を生かしたいのであれば、企業は働き手のサポートに本腰を入れるときではないでしょうか。再雇用などの制度を設けるだけでは足りません。
50代以降の研修がもっとあっていい。企業としてシニアにどんな仕事を求めるのか、整理して示す。製造現場の安全管理を担ってほしいのなら、若手の指導役になれる知識やスキルを身に付けてもらう。そうすれば、定年後の準備がしやすくなるはずです。
というのも、日本の企業では、50代から「学び」が減ってきます。管理職になると実務は部下任せ。ところが、業務のデジタル化をみても日進月歩で進化している。いざ定年になって実務に付いていけないケースは往々にしてあります。
シニアの給与も一律では不公平感が出かねない。仕事を外注した場合を考えて決めるなど、一人一人の働きに応じた額を支払う。根拠のある「格差」は、モチベーションのアップや維持につながると思います。
■働くシニアへ 変なプライドは捨てよう
「くれない族」になっていませんか。
シニアの働き方をテーマにした講演会などで、そう問い掛けています。「ふさわしい仕事を用意してくれない」「能力を認めてくれない」と、不満たらたらの人は少なくありません。受け身になって周囲のせいにしていると、働きづらさや疎外感を自ら招いてしまう。自分に何ができるのか。まずは、よく考えてみてください。
でも現状は、シニアが自身の持ち前をなかなか発揮しにくい。定年まで勤めた会社での再雇用もそう。たいてい社内の役割も、給与もダウンします。「仕方ない」と割り切れない人もいるでしょう。企業側の改善点もありますが、他社への転職などの道もある。進路は一つではないのです。
大切なのは、変なプライドを捨てること。過去の肩書などにとらわれていると不評を買うだけです。どんな仕事も拒まずに挑み、職場で手が回らない業務に気付いたらカバーする。「頼りになるシニア」かどうかも、気持ちよく働くための大きなポイントです。
ふじむら・ひろゆき 大竹市生まれ。名古屋大大学院で学び、滋賀大教授などを経て、04年4月から現職。博士(経済学)。
▽人材紹介業「トレハン」の山根浩代表(45)=広島市南区
■支える企業へ 活躍の場を創り出して
年齢はただの数字でしかない。事業を始めて強く感じていることです。心身ともに健康で朗らかな「健朗シニア」が増え、70、80代になっても「元気なうちは働きたい」「社会に貢献したい」と職探しにやってくる。そんなシニアが活躍できる仕事を、企業は「創り出す」ことが必要です。
高齢者ならではの視点や創造力が、新しいビジネスにつながる可能性は十分あります。街や公共交通をバリアフリー化するアイデアを考えたり、シニア向けの商品開発に携わったり。スーパーのレジ打ちを座ったままできるようにするなど、働き方の工夫も要るでしょう。
そのためには固定観念を捨てること。海外では、つえや車椅子を使うシニアが遊園地の案内係・接客係をすることが当たり前にあります。サングラスを掛けている人もいる。方や日本では「対人の仕事は若い人や女性が担うもの」とのイメージが根強く、まぶしくてもサングラスは禁止。多様な働き方に寛容な社会になってほしいですね。
■働くシニアへ 勝負する力を磨いていく
広島でもコロナ禍の中で、仕事の奪い合いが激しくなっています。宿泊や飲食業で働いていた若者が他業種に流れ、高齢者はより不利になっている。特にアルバイト市場では、(1)学生(2)主婦(3)60代(4)70代―という採用の序列が鮮明になっています。
そんな中でもスキルがある人は採用されやすい。「人は足りている」と話す経営者も、よく聞いてみると営業ができる人や技術力がある人を望んでいます。若者が代わりにできない技能、「会社の枠」を外れても勝負できる力を、早くから磨いておいてください。
職探しは結婚と似ています。条件が先行するとマッチしないし、求人票の文面だけでは本当の働きやすさや雰囲気は分からない。
例えば、資格が必須と思われる介護業界でも、シーツ交換や食事介助の仕事があります。年齢制限がない上、施設の利用者や職員に感謝されることがやりがいになり、長く続ける人は多い。先入観を捨て、何事もまずは飛び込んでみることです。
やまね・ひろし 山口県田布施町生まれ。高齢者施設の施設長を経て、18年にトレハンを設立。登録するシニアは千人を超える。
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