くらし
【この働き方大丈夫!】 リモートワーク、自己管理が鍵 実践3年、尾道の陶山さん 東京のIT企業社員
リモートワークをして3年になる「達人」が尾道市向島町にいる。陶山嶺(すやま・れい)さん(32)は、瀬戸内海のそばで、東京のIT企業の社員として働いている。新型コロナウイルスの感染防止で広がるリモートワークをどうすればうまくこなせるのか。陶山さんが心掛けているのは、「当たり前」の基本技を徹底し、自律的な働き方をすること―。
陶山さんは、広島大に在学中に尾道の豊かな自然に魅了され、2017年に都心から尾道に移住した。「リモートワークは上司がそばにいないので、自分で自分を管理する力が必要になる」と実感を込める。
この自己管理が難しい。職場にいれば上司が「あれどうなった?」と確認に来たり、チームの同僚が自然と助けてくれたり。顔が見えるだけに黙っていても周囲のサポートを得やすい。一方、リモートワークは1人の時間が長くなる分、主体的、能動的に動くことがより求められる。
「そのためには、会社で働くときに必要となる基本的なことを、もっと徹底しないといけない」と陶山さん。自己管理のために大切にしている三つのポイントがあるという。
【三つのポイントとは】
<1>集中して仕事ができる環境づくり
まず意識しているのは家の中に「仕事空間」を設けること。気持ちを切り替えるためにも毎朝きちんと服装を整え、朝食を取る。朝8時からパソコンデスクと加湿器しかない部屋で作業を進める。雑誌や布団など気が散りそうなアイテムは部屋に置かない。
頭の中を整頓しておくことも大切だ。「あれもこれも」と業務をため込むと効率が落ちる。シンプルな「to do(すること)リスト」を作り、チェックしながら順に終わらせていくと集中しやすいという。
上司や同僚への連絡も滞れば負担になる。「返事はチャットで早く完結に終わらせます」。前置きや宛名を書く手間のいるメールはほぼ使わない。
無駄を省く一方、時間が掛かりそうなプロジェクトには早めに手を付ける。締め切り直前ではなく早めに上司に相談することも、生産性を高める。
<2>密な報告・連絡・相談
ビデオ会議でのやりとりを増やすと、チーム間の考え方のギャップが生まれにくい。文字でのやりとりが増えるリモートワークではどうしても相手の表情やしぐさ、声から得られる情報が減る。1日に1回以上はビデオ会議で同僚の声を聞いたり顔を見たりして、コミュニケーションを取りたい。
陶山さんの会社は社員約80人のほとんどがリモートワーカー。チーム全員の予定をオンラインカレンダーで共有し、ビデオ会議で「誰が今何をしていて課題は何か」を確認する。上司や同僚の顔を見れば緊張感やモチベーションの維持につながる。他者の共感や助言などのフィードバックは、信頼関係を強めてくれるという。
<3>上手にリフレッシュ
オンとオフをうまく切り替えられなければ「だらだら仕事」や働き過ぎに陥りかねない。自分なりの気分転換の方法や場所を持つと心強い。
陶山さんは集中力が切れると、昼休みにバイクで海沿いを走る。「尾道の自然や町並みが好きで移住したので、モチベーションが上がるんです」
長時間1人でパソコンに向かうため「孤独対策」も必要だ。時折、海の見えるなじみのシェアオフィスに仕事場所を変え、解消している。仕事も価値観も違う知り合いと言葉を交わせば刺激にもなる。
終業は午後5時。残業はほとんどなく、任された仕事を十分終えられる。アフター5と休日を使い、昨年1月にプログラミング言語の専門書を出版した。11月にはキャリアアップ転職も果たした。
「好きな場所で自由に、がかなう働き方です」と陶山さん。コロナ禍の在宅勤務中に自己管理の能力を養えば、職場でもプライベートでも可能性が広がりそうだ。(標葉知美)
■ストレス「感じた」6割
新型コロナ禍の中でテレワークをした人が職場にいるときはなかったストレスを感じたことがあるどうか、リクルートキャリア(東京)は昨年9月に調査。6割が「ある」と答えた。会社で顔を合わせることで生まれていたコミュニケーションや協力が減ったことが原因のようだ。
調査は20〜60代の2213人に実施。昨年1月以降にテレワークを始めてストレスを感じたと答えた人のうち、7割は9月になっても解消できていなかった。ストレスが続いている人は、仕事中に「雑談」がない人が多いことも分かった。
職場にいないと、仕事の全体像を把握しづらく、孤独を感じることもある。同社の担当者は「互いを認め合う言葉掛けが心労を減らしているようだ」と話す。
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