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【この働き方大丈夫? エピローグ】本当の働きやすさって?<1>見えてきた課題は―記者が振り返る

2021/2/23 20:35
グラフィック・大友勇人

グラフィック・大友勇人

 人生100年時代、私たちは「働くこと」とどう向き合えばいいのか―。そんな問い掛けから始めた連載計8部の取材から見えたのは、長時間労働に象徴される「日本型雇用」の限界と、組織に絡め取られて「自立できない働き手」の姿でした。連載の締めくくりに担当記者2人が取材を振り返り、「本当の働きやすさ」って何なのかを考えます。(ラン暁雨、林淳一郎)

 ▽日本型雇用、もう限界

 ■正社員になれなかった就職氷河期世代や、子育てや介護で離職した人たち…。いったんレールを外れると再チャレンジは非常に難しい。働き手の情熱を利用した「やりがい搾取」にも悲鳴が上がる。

 非正規から抜け出せない。使い捨てにされた…。連載で多くの共感が寄せられたのは、非正規ワーカーなど組織からはじかれた人たちの嘆きだった。新卒一括採用が色濃い日本型雇用のシステムの冷たさを憂う声が強かった。

 バブル崩壊後の就職氷河期世代は「貧乏くじを引いた」「現代の身分制度」とうなだれた。親の年金で暮らし、親子共倒れを心配する人もいた。

 経済的な基盤が築けず、結婚や出産が遠のいてしまうケースも少なくない。年収が低いほど未婚率が高くなる「年収300万円の壁」の前で立ちすくむ男性もいた。かつて結婚して「寿退社」した女性は再就職できず「輝けない」とうつむく。

 少子化で「人材不足」と言われるが、多様な働き手を受け入れる器はまだ育っていない。国や地方自治体の公務員の5人に1人は非正規。保育や介護、DV(ドメスティック・バイオレンス)の被害者支援などケア業務を安く使うことで生じる「官製ワーキングプア」にも不満が渦巻く。

 ■高度成長期に定着した「日本型雇用」は男性中心。長時間労働と上意下達の企業文化は、自分たちの働き方に合わない人を「異質な存在」とみなして排除する。

 働く時間の長さや「イエスマン」かどうかで会社への忠誠心が測られる。「ボーイズクラブ」に入れるのは、男並みに働けて同じ価値観を共有できる人だけ。仕事と家庭を両立しようと頑張っても、活躍しにくいと感じる子育て中の女性は多い。男性の育休取得も進まない。

 パワハラ問題も根っこは同じかもしれない。理不尽な要求や過剰なノルマなど、古い価値観を押し付ける上司にうんざりする若手は多い。個々の事情より組織の論理が優先される。

 かつては同質性を高め、結束力と生産効率を上げる仕組みが有効だったが、多様な働き手が増えた現在にはフィットしなくなっているという指摘もあった。均質化した組織ではイノベーションは生まれず、競争力が失われる―。そんな警鐘が、どこまで響いているのだろう。

 ■「働き方改革こそ正義」の大号令。組織が「右向け右」と旗を振る風潮は、働き手の思考停止を招き、職場を息苦しくさせかねない。それぞれが自分に合った働き方を「選択」できるようになっているか。

 働き方改革の本丸は、長時間労働という慣習をやめること。その方向性に異論を唱える人はほとんどいなかったが、まだ改革は成熟していないようだ。仕事の量を減らさないまま残業を規制し、持ち帰り残業や早朝出勤をして、かえって負担が増えたケースも少なくない。働く場所の制約をなくすテレワークも「強制されるのでは本末転倒」とため息が聞こえた。

 結局、組織のための「働かせ方改革」にとどまっている、との指摘も少なくなかった。効率と成果ばかりがシビアに求められると、人間関係はぎすぎすする。働き手が納得できる改革まで、道のりは半ばだ。

 ▽「自立」できない働き手

 ■「イエスマン」が求められる組織の中で、言われた仕事しかしない「指示待ち」、主体性を欠いた「くれない族」になっていないだろうか。

 右肩上がりの高度成長期は「大量生産・大量消費」という分かりやすい目標があり、使いやすい「イエスマン」が重宝され、働き手も従順に応えてきた。そんな職場の体質がいまだに残る中で、働き手にも「指示待ち」の体質が染みついているのではないか―。そんな指摘を、識者らから繰り返し聞いた。

 「ふさわしい仕事を用意してくれない」「能力を認めてくれない」。活躍できないことを周囲のせいばかりにする「くれない族」になっては、前への一歩を踏み出せないという意見もあった。

 そんな中、働き手自身の成長がストップしがちになっている現実に向き合う必要がありそうだ。今後は、AI(人工知能)を中心とした技術革新が進み、人材が企業間を動くようになり、働き方の自由度が増すとの見方がある。「指示待ち」「くれない族」のまま自立できずにいると、取り残される心配がある。

 ■働き方改革の中で、働き手が「権利」を振りかざせば、成長の機会を失いかねない。

 残業の規制が進み、育児や介護をしながら働ける体制が整い、パワハラ防止対策も促される―。職場のあしき慣習を見直すことに異論を唱える人はいない一方で、改革の趣旨にそぐわず周囲の納得を得られない事例も出ているようだ。

 チームで残業しないといけなくても、定時でさっと退社する。「だって働き方改革でしょ」。若手の開き直ったような物言いに、中堅社員が困惑するケースもあった。会議中もスマホをいじって上の空。「やる気ないなら帰れ」と叱ったら「パワハラ認定」される。「指導とパワハラの区別が難しい」という声は現場に根強くある。

 理由を説明せず頻繁に早退するワーキングマザーに対しても、子どもに関することは「聖域」で受け入れるしかなく、イライラを募らせる人もいた。

 識者からは「ワークライフバランスは『楽にさせただけ』に終わっていないか」という見方も示された。働き手にとっては、成長の機会を失いかねない面がある。

 ■ワークライフバランスが大切と言われて久しいが、いまだに生活、人生のほとんどを「仕事」が占めている人が多い。このままでいいのか。

 ある若手会社員は、長時間労働を賛美する上司に閉口していた。「限界まで頑張れ、最後の1秒まで手を抜くな」。仕事にせき立てられる日々は苦痛でしかない。「モーレツ社員」は時代遅れ、という意識は定着しつつある。

 一方で、子育てで早帰りする女性や育児休暇を取ろうとする男性に、冷ややかな視線が注がれる職場もいまだにある。早めに業務を片付けて、映画を見ながらリフレッシュなんてもってのほか。「そんな日が来るとは思えない」と諦めに似た嘆きも聞こえた。

 会社にとらわれて家庭を顧みない男性のそばで、働く女性には仕事に加え、家事、育児と負担がのしかかる。「女性活躍が重い」という悲鳴も上がった。

 会社とは別の世界、役割を持って豊かに生きる「パラレルキャリア」で輝いている人はまだ少ない。「単線出世型」の組織の中で、仕事に多くの時間をささげている人がほとんど。仕事と生活の時間をコントロールしてワークライフバランスを実現できる人は、まだ限られているようだ。

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