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【「支配」が怖い】<下>抜け出すには 嫌な気持ち、打ち消さないで

2021/3/22 18:51
グラフィック・末永朋子

グラフィック・末永朋子

 なぜ人を支配し、それに従う関係が生まれてしまうのだろう。今月報じられた福岡男児餓死事件でも、男児の母親が知人女性に経済・精神的に支配されていたことが背景とされる。嫌と言えないまま、生活のあらゆる面をコントロールされる関係をエスカレートさせず、抜け出すためにはどうすればいいのか。対人関係に詳しい専門家たちに聞いた。

 ■悩みや不安あると付け入る隙に/第三者への相談で問題を客観視

 ▽支配・被支配の構図

 「そもそもフラットな人間関係は存在しない」。そう話すのは、広島国際大の西村太志(たかし)准教授(社会心理学)だ。知識やスキルなどは人によって違う。その差が影響力を与える側と受ける側の構図を生み、エスカレートすると従属関係に陥りかねないという。

 西村准教授によると、疑いもなく従うようになるのは、とりわけ悩みや不安を抱えているとき。自分を客観視する余裕がなく、他者の影響を受けやすい。従わせる側にとっては付け入る隙になる。ただ、本人たちは「凹」と「凸」が合致したような関係と見なし、双方が従属関係を「正当」であるという信念を抱きやすくなる。

 ある種の信頼関係―。そう捉える専門家もいる。相手よりも優位に立たないと不安になる人と、頼れる存在を求める人が出会い、互いに自己肯定感や安心感を満たしていく。

 他者を排除し、閉鎖的な関係になりやすく、従う側はコントロールされていても「自発的にしている」感覚にとらわれてしまいがちになる。ひろしま家族機能相談所(広島市中区)の東山(とうやま)良子代表は「カウンセリングをしながら、人に尽くしてきたことが『被害』だったと気付く人もいる」と話す。

 ▽脱「支配」の手だて

 支配がエスカレートすると、従う側が自力で抜け出すのは難しくなる。支配に順応してしまい、人付き合いも狭まって孤立することが多いからだ。「いかに早く『おかしい関係』と気付けるか」。専門家は口をそろえて指摘する。

 大切にしたいのは、相手の言葉や行動を「不快」「嫌がらせでは」と感じるかどうか。広島心理教育研究所(安佐南区)の小村緩岳(やすたか)代表は「そう受け止めたときはハラスメントかもしれないと考えてみてほしい」と求める。

 パワハラといえば、大声で叱る、過大な要求を突き付ける…。「うるさい」というひと言も言葉の暴力になる。「そうした暴力によって支配が進むが、それは人権侵害に他ならない」と小村代表。我慢せず、理不尽かどうかを自ら判断する物差しを持つことが、支配の沼にはまらないための「予防策」になるとみる。

 カウンセリングルーム心奏(ここかな)=中区=の高見知日子代表は「つらいときは逃げてもいいし、嫌と言ってもいい。そのことを心に留めておいて」と呼び掛ける。ただ、支配する相手に対しては「ノー」と言い出しにくい。そんなとき支えになるのが、自分とは利害関係のない第三者への相談だ。

 行政の相談窓口やカウンセラー、民生委員…。打ち明けて何が変わるのかと思う人もいる。「でも話すことで問題を客観視でき、心に余裕も生まれてくる。相談は変えていくためのパワーや知恵をアップさせる場とみてもらえたら」。学生時代の友人でもいい。広いつながりが、困ったときの支えになるという。

 さらに、高見代表は「アサーション」という自己表現の在り方も紹介する。自分も相手も大切にして、意見をはっきり伝えるコミュニケーションの方法だ。

 例えば、レストランで注文したのとは別の料理が出てきたらどうするか。「違うじゃないか」と攻撃的になると、相手を傷つけてしまう。何も言わないと、もやもやが残る。そうではなく、「違いますよ」「変えてほしいんですけど」と素直に告げてみる。

 とはいえ、どんな反応が返ってくるか気になるところ。「それは相手の問題で、実は自分の責任ではないんです」と高見代表。「思いを押し込めず、第三者のサポートも得て自分を守ることを大事にしてほしい」(林淳一郎)

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