くらし

打たない人への差別や嫌がらせ 防ごうワクチンハラスメント

2021/7/1 18:40
職場などでの不適切な対応(グラフィック・本井克典)

職場などでの不適切な対応(グラフィック・本井克典)

 中国地方でも職場などで新型コロナウイルスワクチンの接種が進む半面、心配されるのが打たない人への差別や人権侵害のハラスメントだ。広島弁護士会の寺本佳代副会長は「接種が大きな流れになっている今、打たない人が苦しい立場に置かれることもあると思いを巡らせてほしい」と訴える。どんなことがワクチンハラスメントになるのだろうか。

 ▽個人の判断尊重して

 ワクチンを打ちたくないと伝えると、個人面談で「辞めてください」と言われました―。広島県労連(広島市東区)の労働相談センターに最近寄せられた相談だ。内谷富雄所長は「菅義偉首相も本人の選択と言っている。接種しないことでの解雇はあり得ない」と強調。相談者にも「接種しない自由があると主張して」と伝えた。

 国は、感染まん延を防ぐため、妊婦を除き、接種を努力義務としている。努力義務は予防接種法に規定され、麻しんや風しんの予防接種にも適用されているが、強制ではない。厚生労働省は「同意がある場合に限る」とし、周りが接種を強いることや、接種を受けていない人に職場や学校などで差別的な扱いがないよう求める。

 広島弁護士会の寺本副会長は「接種をしないことだけを理由とする解雇や退職勧告はあってはならない」と強調する。解雇権の乱用に当たる可能性が高い。さらに「受けられない理由をしつこく尋ねるのもハラスメントになる」と指摘。病気や不妊治療が理由の場合もあり、プライバシーを侵すことになりかねないからだ。

 接種するのが当たり前という雰囲気をつくる「同調圧力」にも注意を払いたい。いち早く接種の進んだ広島県内の医療機関では、接種した人の名前に印を付けた勤務表が職場に張り出され、違和感を覚えた人もいたという。寺本副会長は「どんな医療を受けるかは守られるべき個人情報で、明らかに配慮不足だ」と話す。

 では、接種しない人の配置を換えるのはどうか。広島県医療労働組合連合会の役員の男性は「接種しない人の方が感染リスクは高い。医療従事者の場合、打たない人が患者と接する部署で働き続けたいと望んでも、その部署から外すのは本人や患者への配慮としてはあり得るのかもしれない」と難しさを口にする。

 寺本副会長は「必要な措置ならハラスメントではない」と話す。クラスター(感染者集団)の発生が続いた高齢者施設などでは、ワクチンを接種しない人を利用者と密接に関わる現場から一時的に外すのは合理的な配慮に当たるとみる。ただ、感染が収束しても戻さなかったり、通勤が難しい場所に異動させたりするのは不適切という。

 職場ごとのリスクを評価する必要性も説く。「医療や介護の現場と、健康な人を相手にする販売業などを同一に扱うのはどうか。販売業などでは接種しない人を異動させるのは行き過ぎだろう」とみる。特に、アルバイトや非正規雇用の人は、別の仕事に振り向けることが難しく、職を奪うことになりかねない。

 企業などが職員に「受けてほしい」と呼び掛けることに問題はあるのか。寺本副会長は「呼び掛け自体はハラスメントではありません」と言う。ただ「最終的には個人の判断で決められ、接種しても、しなくても不利益な取り扱いはしないと明示しておくべきでしょう」と助言する。

 広島大大学院の坂口剛正教授(ウイルス学)も「重篤なアレルギーの経験があって打てない人もいる。接種は個人の判断が尊重されべきです」とする。一方、感染収束には多くの人の接種が鍵を握るとし、「ワクチンの成分が遺伝子に組み込まれるなどの誤った情報を基に判断するのは避けてほしい」と呼び掛けている。(衣川圭)

 ▽納得いかない対応は相談を

 ワクチン接種をしない選択をしたときに、納得できない解雇や配置転換があったらどうすればいいか。各県にある労働局や労働基準監督署内にある総合労働相談コーナーや、各県の雇用労働関連の部局、労働組合の連合体などが相談窓口を設けているので活用したい。

 労働者と使用者の双方の主張から合意点を探りながら、話し合いで解決を目指す「あっせん」という制度もある。広島県雇用労働政策課は「県のホームページやチラシでも、接種は強制ではないと周知している。差別的な取り扱いがあった場合はまず、相談してほしい」としている。

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