防災を学ぶ<5>【企業】「備え」強化、動きだす
▽中小の支援、着手も
広島県内で路線バスを運行する東広島市の芸陽バス本社。今月7日、幹部約20人が顔をそろえた。「お客さまはもちろん、従業員の安全確保も重大なテーマだ」。一橋浩文安全統括部長(58)が呼び掛けた。全46路線が運休した昨年7月の西日本豪雨を教訓に、初めて全社的な災害対応の計画を作る。そのスタートだった。
県内は7月6日夕から各地で土石流や浸水被害が発生。同社がバスを走らせる東広島市や広島市安芸区などで道路は崩落し、濁流に漬かった。全700キロの営業区間には土砂災害の警戒区域や危険箇所もある。路線の一部は今も迂回(うかい)運行が続く。当時、従業員約190人の中に帰宅、出社できない人が相次いだ。
▽交通網ダメージ
西日本豪雨では、中部地方から九州までの各地の交通網がダメージを負った。物流は滞り、企業活動に甚大な被害が出た。その停滞は、直接の被災地以外の住民の暮らしにも影を落とした。豪雨は、多くの企業に備えの見直しや強化を迫った。
マツダ(広島県府中町)は社員の通勤や部品調達が滞り、本社宇品(広島市南区)と防府(防府市)の両工場を5日間休止。約2カ月で通常生産に戻したが、減産に伴う損失額は約280億円に上った。
2011年の東日本大震災を受け、部品調達先の被災状況を確認できるシステムは導入済みだった。しかし、社員が通勤できず操業が止まる事態は想定外。災害時の事業継続計画(BCP)を見直す考えを示す。
地域防災への貢献を強める企業もある。「わたしは『防災士』です」。スーパーのフジ(松山市)は、運営店舗内に店長の顔写真入りパネルを掲げる。13年度、全店長や幹部が防災士の資格を取得。その後も継続し、グループ全体で約390人が資格を得る。
「スーパーは食料品を扱い、一時避難先にもなる」。フジグラン高陽(広島市安佐北区)の木村正博店長(52)は地域と一体で防災を進める意義を強調する。
2月まで南海トラフ巨大地震に伴う津波被害が想定される高知市に勤務していた。帰宅困難者を駐車場で受け入れる訓練の準備を高知県と進めた。「高陽エリアは高齢者が多く、土砂災害警戒区域が点在する。地元と一緒に防災訓練をしたい」
▽BCP作成2.8%
しかし、災害対応を強化する動きは、特に中小企業で広がりを欠く。広島県中小企業家同友会の今年1月の調査で、BCPを作成済みの企業は回答した633社のうち18社(2・8%)。BCPが何かを知らない会社は157社と約4分の1を占めた。
同友会の竹河内博之専務理事(60)は「会員の多くは日々の仕事に追われ、手が回らない。喉元過ぎれば、にしてはいけない」と危機感を強める。広島県は19年度、中小140社を対象にしたBCPの作成講座を初めて開く。
企業活動の存否は、被災地の復旧スピードや生活の質を左右する。「想定外」をなくす努力は企業にも求められている。(災害取材班)
<クリック>事業継続計画(BCP) 企業が災害や大規模火災などの緊急事態を想定し、中核事業の継続や早期復旧のための方法を取り決めておく計画。従業員の安全確保▽優先的に復旧を図る事業▽復旧費用の調達▽代替の生産先▽輸送手段▽電力やガス、水の確保―などを盛り込む。
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