地域ニュース
ごみ屋敷と向き合う<上>立ちはだかる壁 所有の権利、踏み込めず(2017年11月06日掲載)
家屋に大量のごみをためる「ごみ屋敷」。悪臭がしたり火災を引き起こしたりと、周辺住民への影響は大きい。根っこにある問題は何か。どう対処し、支援すればいいのか―。中国地方の現場から、解決への手掛かりを探る。
窓ガラスが割れた家屋の周りに、空の弁当容器やペットフード缶が散乱する。隣家の敷地や道路にはみ出し、臭いを放つ。時折、飼われている犬や猫が顔をのぞかせる。皮膚病なのか、毛が所々抜けている。
広島市内の一軒家。地域住民などによると60代の男性が1人で暮らし、約10年前から屋内外にごみをためるようになった。自治会役員らが何度も片付けを促したが、状況は変わらない。男性は「いつかどうにかするけえ、放っといて。ここは私有地じゃけ」と話す。
悪臭や害虫に耐えかねて転居した人もいるという。ある住民は「しつこく言ってトラブルになっても嫌。周りが我慢するしかないんですかね」。何とかしてほしいと住民たちが訴える先は、行政しかない。
▽条例設置の動き
市の関係部署は多岐にわたる。公衆衛生、住民福祉、公道・建築物・動物の管理…。各担当者が面会や張り紙で男性に対応を求めたが、効果はない。「でもこちらで勝手に撤去するわけにもいかない」(市環境政策課)。一般的に見て「ごみ」であっても、それを所有する権利を他者は侵せない。
「ただ、公共の福祉に反する場合、法令で所有権に一定の制約をかけることができます」。高齢者問題に詳しい広島弁護士会の松本亮弁護士は説明する。例えば、大量のごみによる環境悪化で周りの人が生活できない場合などは、法令の範囲内で強制的にごみを撤去できるケースもある。
この考えに基づき、独自の条例を定める自治体も増えてきた。先駆けは2013年に施行した東京都足立区。最終的にはごみ撤去の命令や代執行もできる規定を設けた。他にも大阪市、北九州市など都市部で目立つ。
▽代執行は少なく
一方、広島市には同様の条例がない。「公権力で市民の権利を制限して対応せざるを得ないほどの状況ではない」との理由だ。市が把握しているごみ屋敷は昨年10月時点で12件。市環境政策課の高野正徳課長は「従来通り、各課の業務を通じた関わりの中で解決を図りたい」と説明する。
実際、条例があっても代執行でごみ撤去に踏み切った自治体は少ない。各自治体とも「代執行はあくまで最終手段」という姿勢は共通しているようだ。ただ、ごみ屋敷問題に詳しい東邦大の岸恵美子教授(公衆衛生看護学)は「条例への期待は、むしろ別の側面にある」と強調する。
家への立ち入り調査ができたり、住人の戸籍、納税状況が調べられるようになったりして、住民が抱える問題を把握しやすくなる。それが的確な対応につながっていくという。「さまざまな部署や機関が問題意識を高め、責任を持って取り組む姿勢も生まれる」
▽その背景にセルフネグレクトの影
たとえごみを撤去できても、根本的な解決にはならない。「住人が抱える何らかの要因が、長い時間をかけて目に見えるかたちで現れたのがごみ屋敷。根っこに目を向けないと同じ事が繰り返される」。東邦大の岸恵美子教授は指摘する。
ごみ屋敷の要因として挙げられるのは、セルフネグレクトだ。認知機能の低下や精神の変調などで、自らの行動をコントロールできなくなる状態をいう。自分の身の回りの世話を放棄し、住環境にも関心が持てない。周りとの関わりを拒むケースも多く、支援拒否という壁をつくりだす。
内閣府の2010年の調査では、セルフネグレクトの高齢者は全国で推計約1万1千人。原因は認知症・精神疾患が最多で、近親者の死をきっかけに片付けられなくなった例も目立つ。
広島市内の60代男性のケースはどうか。知人たちによると、同居していた母親が遠方に転居した後から、ごみ屋敷化が始まったという。岸教授は「家事を担っていた母親がいなくなり、近隣との付き合いも薄くなったのではないか」と推測する。
現在、男性は肉体労働で収入を得ているが、家の電気やガスはストップしている。岸教授は「どのケースも時間はかかるが、個々の住人に必要な支援をしていくことこそ、根本解決への糸口になる」と強調する。(教蓮孝匡)
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