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法定額では人材来ない/「正規料金」は2倍以上 報酬、選挙関係者が語る実態(2019年11月02日掲載)

2019/11/7 23:45

 自民党の河井克行衆院議員(56)=広島3区=が就任からわずか51日目で法相辞任に追い込まれた問題では、選挙運動中に選挙カーで支持を呼び掛ける「車上運動員」の存在がクローズアップされた。報酬の上限は1日当たり「1万5千円」となっているが、選挙に携わる関係者からは「それでは人材が集まらない」という声が続出する。広島県内の実態はどうなっているのか、証言を集めた。

 「そもそも1万5千円では働き手が集められない」。各陣営の依頼で車上運動員を紹介する県内の会社社長が吐露した。報酬額のルールが現実と懸け離れているという認識は、選挙に携わる関係者の多くに共通する。

 車上運動員は選挙戦で選挙カーに乗り込み、有権者に手を振ったり、マイクで候補者の名前を売り込んだりする。街頭演説では候補者とともに「1票」を呼び掛ける。選挙カーでの運動は午前8時から午後8時までの12時間。丸1日の勤務はハードなため、6時間勤務でシフトを組むのが一般的だという。

 会社社長は「候補者の印象を良くするメッセージを考えながら、手を振り続け、声を出し続ける。大変な仕事」と説明する。候補者のイメージを左右しかねない存在でもある。それだけに複数回の選挙を戦った陣営幹部は「声の通りが良く、アドリブが利く優秀な人材はずっと囲い込んでいる」と、人材獲得を競い合う現状を語った。

 ▽ルール広く浸透

 経験者によると、各陣営が車上運動員を確保する方法は(1)本人やスタッフの人脈を生かして探す(2)紹介会社や派遣会社に依頼する―の大きく二つ。報酬の上限ルールは車上運動員にも広く浸透しているという。ある女性は「スタッフから最初に『法定内しか絶対払わない。でも全力でサポートする』と話があった。当たり前の話で、文句なく楽しくやれた。ルールは守らんといけん」とする。

 一方、競争の中で危うい実態も横たわる。統一地方選で選挙に初挑戦した女性は、車上運動員の経験のある知り合いに声を掛けたが、遠回しに「1万5千円では相場に合わない」と断られた。ある車上運動員の経験者は「行った先々で、みんなが『あの事務所はいくらだった』と話すから、安い日当では引き受けない」と明かす。

 関係者によると、上限額と相場の差額を埋めるため、事務員の肩書を付けて上乗せしたり、選挙とは別の費目で支出したりと、待遇を良くする工作もあるという。「上限1万5千円の日当だけでやってくれるケースなんてない。業界内での『正規料金』は2倍以上だ」。4月の統一地方選で広島市の候補者の参謀役だった男性は言う。

 ▽据え置き27年間

 こうした現状を背景に今回、河井氏の妻で自民党の案里氏(46)=参院広島=の選挙事務所が7月の参院選で、車上運動員13人に日当3万円を払ったという疑惑が浮上した。車上運動員は報酬を受け取る際、投開票日と公示前の日付の2枚の領収書にサインをしたとされる。男性は「信じられないやり方で、脇が甘すぎる」とあきれる。

 総務省によると、車上運動員に報酬を払えるようになったのは1978年で、公選法施行令に基づく日当の上限は4500円だった。83年に6千円へ引き上げられた後、92年に現在の1万5千円に。その後は27年間、金額は据え置かれたままとなっている。

 車上運動員に法定金額以上の報酬を払うのは、公選法が禁じる買収行為とみなされる場合がある。現役の国会議員秘書は「報酬が激務に見合わないという思いはある。だが選挙の取り締まりは年々、厳しくなっている。最初に念押しを徹底するしかない」と気を引き締めた。(久保友美恵、中川雅晴、樋口浩二)

 <クリック>車上運動員の報酬 公選法は選挙運動員への報酬を原則禁止としているが、例外的に車上運動員や事務員、手話通訳者には認めている。車上運動員の上限は1日1万5千円。超過すると買収行為とみなされる場合があり、法定刑は3年以下の懲役または禁錮か50万円以下の罰金となっている。秘書や親族、出納責任者たちが罪に問われて禁錮以上の刑が確定すると、政治家本人に連座制が適用され、失職したり立候補禁止になったりする。

 ■車上運動員「1日3万円」 女性証言「陣営関係者から依頼」

 自民党の河井案里氏(46)が7月の参院選広島選挙区(改選数2)で初当選した際の公選法違反疑惑が報じられた問題で、別の選挙で車上運動員をした経験がある広島県内の女性が1日、中国新聞の取材に、参院選前の今春に「案里さんの陣営関係者から『1日3万円でどうですか』と依頼された」と証言した。

 女性によると関係者は、陣営に加わる案里氏の支援者とつながりがある。依頼を受けた時期は、自民党本部が広島選挙区での2議席独占を目指して案里氏を公認し、陣営が夏の選挙戦に向けて組織づくりを進めていたころにあたる。

 女性は過去の選挙で、別の政党の陣営で車上運動員をした経験があり、公選法が定める報酬の上限が1日当たり1万5千円だと知っていた。「3万円は魅力的だったが、公選法違反のリスクを考えて断った。上限額以上が当たり前、という印象だった」と振り返る。

 案里氏の事務所に事実関係を問い合わせたが、1日夜現在で回答はない。

 案里氏は7月の参院選で、選挙事務所が車上運動員13人に法定上限を上回る日当3万円を払ったとする疑惑が報じられた。31日に「事務所運営や事務は、法令順守の方針のもと、信頼できるスタッフにお願いしてきた」とのコメントを出している。(久保友美恵、樋口浩二)


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