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「原爆の図」から紡いだ声 アーサー・ビナードさん、新作紙芝居 絵と対話「いのち」の物語(2019年05月02日掲載)

2020/1/4 19:15

 広島と東京を拠点に活動する米国出身の詩人アーサー・ビナードさんが、丸木位里・俊夫妻による連作「原爆の図」に独自の物語をつけ、紙芝居を完成させた。7年をかけて絵と向き合い、紡ぎ出した言葉が語りかける主題は、「いのち」である。

 「ちっちゃい こえ」と題した紙芝居の主人公は、「サイボウ」だ。小さな小さな細胞から核を問う物語。広島に暮らす猫のクロを語り手に、原爆が生きとし生けるものに何をもたらしたのか、静かに伝える。

 「原爆の図」は、丸木夫妻が被爆後の広島で見聞きした惨状に迫った場面を中心とする15部の連作だ。四曲一双のびょうぶに仕立てられた縦1・8メートル、横7・2メートルの大作は、きのこ雲の下の光景を見る者に想起させ、人間にもたらした痛みを想像させる。その大半は埼玉県東松山市の原爆の図丸木美術館にある。

 ビナードさんは15年以上前に、この連作と対面。「美術作品であると同時にみんなを巻き込む巨大な紙芝居だと思った」という。2012年、被爆者の遺品を題材に絵本を出版した際、そんな思いを編集者に話したのが縁で紙芝居づくりの企画が動きだした。

 ところが、すんなりとは進まない。16枚という限られた紙芝居の場面で、「原爆の図」が内包するメッセージをどう生かすのか。聞き手がいて成り立つ紙芝居では見る人の心をつかむ工夫も要る。「絵の中から声が聞こえて来るまで向き合うしかなかった」。美術館に何度も通い、連作との対話を続けた。

 日本画家の位里と洋画家の俊が共同制作した「原爆の図」はそもそも「実験的な作品」と評されてきた。「縮こもった工夫をしていたのでは張り合わない」。ビナードさんは遺族の許可を得、「原爆の図」から取り出した図像を大胆に切り取り、反転させたり、色を変えたりした。

 猫、犬、人々…。「作品に生かしたのは、『原爆の図』全体の面積で言うと3%くらい」とビナードさん。丸木夫妻が描いた群像の中に分け入り、そこに生きる小さな命に向き合った。

 被爆者や放射線の専門家の話にも耳を傾けた。試作品ができるたび、知人の前で、保育園で、市民集会でと、あらゆる機会を捉えて上演した。反応を見ながら場面に選ぶ絵をかえ、物語も書きかえた。気がつくと7年が経過していた。

 そして完成した紙芝居は、生きている証しでもあるサイボウを音で表現した。

 ずんずん るんるん ずずずんずん るんるんるん

 「みんなサイボウが動いて生きているのに、それを忘れてしまっている。サイボウの声に耳を澄ませていれば、今も続く核開発や汚染にみんなもっと敏感であるはず」。理屈ではなく、音によって、感覚を呼び覚ましたかったという。

 かつて丸木夫妻は「原爆の図」制作と並行して全国を巡り、展覧会を開いた。行く先々で対話し、次作に反映させた。

 丸木美術館の岡村幸宣学芸員は「丸木夫妻が試みた観客との関係性を、ビナードさんは現代的にアップデートしたとも言える。その試みが成功しているかどうか。紙芝居を見る人の反応が楽しみ」と話す。

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