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うつ病で苦しむ人の希望に 元サンフレ選手・森崎兄弟が告白本(2019年11月30日掲載)

2020/1/12 14:37
出版した「うつ白」について語る兄の森崎和幸さん(左)と弟の浩司さん(撮影・田中慎二)

出版した「うつ白」について語る兄の森崎和幸さん(左)と弟の浩司さん(撮影・田中慎二)

 J1サンフレッチェ広島で3度のリーグ優勝に貢献した双子の元プロサッカー選手、森崎和幸さん(38)と浩司さん(38)。「うつ白 そんな自分も好きになる」を今月出版し、選手時代に何度も襲われたうつ病の経験を初めて赤裸々に打ち明けた。「同じような病気で苦しむ人たちの希望になりたい」。そう願う2人の告白に耳を傾けた。(聞き手・衣川圭、写真・田中慎二)

 ▽兄・和幸さん 直接話す時は否定をしないで聞いてほしい/弟・浩司さん 「自分を好きに」森保監督の言葉に救われた

 ―弟の浩司さんは2005年、疲労が回復せず睡眠障害や食欲不振を招くオーバートレーニング症候群になりました。兄の和幸さんも翌年に発症。それからお二人はたびたびチームを離れました。今ではうつ病だったと振り返っています。何が起きていたのですか。

 和幸 最初は、目の焦点が合わず、ボールとの距離感がつかめなくなりましたね。何でだろうと考え込むと眠れなくなって。疲れが取れず、体が重くなる悪循環に陥りました。思考力が低下し、パスが来ても次にどうしたらいいのか判断できなくなりました。

 浩司 人の話す意味さえ分からなくなるんですよ。聞いていても頭の中で処理ができない状態になる。だから人から逃げたくなる。ネガティブなことばかりが頭をぐるぐる回って、切り替えられなくなりました。

 和幸 練習に行く前ですら、身支度の時間配分がうまくできないことがありました。当たり前のことができなくなる。周りの人にもなかなか理解してもらえない。結局、自分の殻に閉じこもっていく感じでしたね。

 ―浩司さんはアテネ五輪に出場し、和幸さんはキャプテンを任されるなど、チームの中心選手となっていく中で症状が表れました。

 浩司 いつでも完璧じゃなきゃいけないという思いが強く、ミスが増えると自分を責めました。反省して次に挑むのはいいことですよ。でも、あまりにも自己否定に走って自分を痛めつけていました。不安な要素を引きずりながらプレーすると、どんどん不調が重なり、結果的にうつ状態になりました。

 和幸 例えば、チームが失点した時、明らかに自分は関わっていなくても「何かできたんじゃないか」と思ってしまうんです。チームの結果が出ないと、必要以上に自分の責任を感じてしまった。「次」って切り替えられるとよかったけど、ずっと気になって「過去」を切り離せなくなっていました。

 ―広島市安芸区矢野出身で高校時代も同じサンフレユースで活躍し、双子のサッカー選手としてずっと注目されました。比較されることもストレスになったそうですね。

 和幸 同じ職業、同じチームで2人で刺激し合ったからこそ、長く現役を続けられたと思います。一方で「浩司はできるのになんで俺はできないのか」って置き換えてしまった。別々の人間なのに。常に人に見られることが受け止めきれず、苦しむことにもなりました。

 浩司 カズ(和幸)が活躍した時、自分はなんで休んでいるんだと否定してしまうことがありました。ほかにもカズが「目が見づらい」と言うと、自分は大丈夫かなと不安になってしまう。逆に、お互いが一番の理解者だったから、うつ病を何度も乗り越えられたんだと思います。

 ―周りの人たちに恵まれたと書いていますね。

 浩司 僕が救われたのは森保一監督(現日本代表監督)の言葉です。「浩司さ、自分のこと好きになってみない? 声に出して『好きだ』と言ってみれば」って。つらい時は当然、自分のことを嫌だって思いますよね。でも、そんなことを思う自分さえも好きになってみようと思って口に出すと、気持ちが軽くなることがあったんです。

 和幸 監督やチームメート、ファンが「待っている」という感じでいてくれたのが大きな支えでした。だから、苦しいんだけれど「諦めちゃいけない」と、どこかで感じていました。妻が「絶対に良くなるから」と声を掛け続けてくれたのもありがたかった。信頼している人が言うなら、信じてみようかなという思いになりました。

 浩司 僕は、妻から「最後は自分だからね」って言われたのが印象に残っています。「つらいから無理だよ」と腹も立ちましたが、最後は自分で乗り越えなきゃという気持ちになれたんです。

 和幸 周りからメールで「調子はどう?」というちょっとしたメッセージをもらえるとうれしかった。そのとき「返信はなくてもいいから」という一言が添えてあるのがありがたかったです。直接、話す時は否定をしないで聞いてもらえると安心できました。

 ―なぜ今、病気を告白しようと思ったのですか。

 和幸 心の病は告白しにくく、周囲も理解しにくいイメージがあるじゃないですか。それを変えたかった。うつ病はどんな人でもなる病気です。同じように苦しむ人には、僕らが告白したことで勇気を持ってほしいんです。

 浩司 うつ病は頭の中で起きていることなので、周りからは分かりにくい。でも僕らは理解してもらえました。そんなふうに少しでも理解が広がって、うつを気軽に告白できる思いやりのある社会になったらと願っています。

    ◇

 「うつ白」はTAC出版から刊行。四六判、296ページ。1650円。


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  • 「うつ白 そんな自分も好きになる」

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