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【やまぐちSL復活40年】<上>支える鉄道マン 効率と対極、にじむ誇り(2019年08月01日掲載)

2020/3/10 22:58
SLの運転室で石炭をスコップで運ぶ井上さん(左)とベテラン機関士の宅野さん。走行中は危険で同乗取材できないため車庫で再現した

SLの運転室で石炭をスコップで運ぶ井上さん(左)とベテラン機関士の宅野さん。走行中は危険で同乗取材できないため車庫で再現した

 JR山口線にSLが復活して1日に40年を迎える。製造から約80年たつ蒸気機関車SLやまぐち号の運行を多くの鉄道マンが支える。2017年9月に投入した新型客車は昭和初期のレトロな外観を再現し、最後尾のラウンジ席からはパノラマの車窓が広がる。子どもからお年寄りまでが片道約2時間の旅を楽しめる工夫を随所に凝らし、令和の世も鉄路を駆け抜ける。

 フォーン。デゴイチの愛称で親しまれるD51蒸気機関車の汽笛が響き、黒煙が上がる。

 津和野駅(島根県津和野町)行きのやまぐち号が午前10時50分、新山口駅(山口市)を出発した。運転室ではSLを操縦する機関士と機関助士の2人が詰める。

 動力の蒸気を生み出すかまは長さ約3メートル、幅約2メートル。蒸気圧が下がらないよう「釜焚(かまた)き」の機関助士は運転室後部の炭水車から石炭を運びかまに放り込む。夏場には60度にもなる熱とすすにまみれた室内で「(蒸気を送る弁を)開ける」「閉める」と大声でのやりとりが続く。

 ▽体重2〜3キロ減

 津和野方面への行程は宮野―篠目間(山口市)の急坂が最大の難所。雨や落葉の時期は車輪が空転する。機関士歴19年目のベテラン宅野孝則さん(59)は「微妙な操作が多く複雑なマニュアル車のようだ」という。

 後輩の井上久利さん(38)は「凍らせたペットボトルを2リットル用意するが夏場は1度の往復で体重が2〜3キロ減る」と過酷な職場を説明する。JR西日本では機関士と機関助士が輪番制。機関士の養成を計画的に進め現在は24人が資格を持つ。

 戦前の1938年製造のデゴイチは老朽化で不具合が絶えない。整備を担う植木利和さん(57)は「調子が悪いときはいつもより甲高い音がする。経験を積んで感覚を研ぎ澄まさないと分からない」と語る。整備の技術は今も昔も「目で盗む」のが基本だという。緊急時にはボルトなどを旋盤で自作することもある。

 一方、中堅格の藤井昭光さん(35)は口伝えが中心の整備方法を書類にまとめる作業を進める。機関車の状態がよくないときは車で後を追いかけることもある。不具合が出たときは正規の運転指令を介するだけでなく、機関士から直接スマートフォンで動画を送ってもらい状態を確認する。

 ▽火の番を一晩中

 定年が数年後に迫る植木さんはSLの整備に25年以上関わってきた。「SLは整備士たちの技術の結晶。自分の力も高めてくれた」と感謝する。

 「効率的」の言葉の対極をいくSLは動かすだけでも容易ではない。かまの火を一度落とすと、運行前日の昼から火をつけて準備しないと走れない。保守点検を受け持つJR西日本子会社の社員、森永真行さん(25)は新山口駅近くの車両基地でまず、かまに段ボールと石炭を敷き詰め火を入れる。蒸気でかまの圧力が高まる翌朝までに約1トンの石炭を投じる。夜の仮眠中も石炭が燃え尽きないよう気を使う。「最初は気が気でなく寝られなかった」と振り返る。

 電車やディーゼル車に比べ苦労は尽きない鉄の塊のSL。それでも関係者は「お客さんから感謝の言葉をもらうのが何よりうれしい」と口をそろえる。言葉の端々にはSLに関わる鉄道マンの自負がにじむ。


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  • デゴイチの底部を点検する藤井さん

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